漢字と熟字訓の由来を巡る旅

漢検準1級と1級に役立つよ

64 海草と海藻  (漢検準1級と1級に役立つよ)

 

海草と海藻

カイソウといっても「海草」と書けば、海に生育する種子植物のことで、いわば海産の水草である。「甘藻」(あまも)などがその代表である。アマモはその姿から「大葉藻」とも書く。一方「海藻」と書けば、胞子によって繁殖する緑藻類、褐藻類、紅藻類など藻類の総称で、種子植物ではないため根茎葉の区別はなく、花や実をつけない。ノリ、ワカメ、モズク、昆布など食用にするものが多い。

緑藻類は緑の光合成色素をもつ藻類で、三日月藻のような単細胞のもの、「水綿」(あおみどろ)のように糸状のもの、「石蒪」(あおさ)のように葉状のもの、「海松」(みる)のように1mにも達する樹状のものなど非常に多様な植物である。アオサは海辺の岩石に着生する海藻で、「蒪菜」(じゅんさい)に見立てて「石蒪」と書く。「水綿」や「海松」と書くのは読んで字のごとく、形状からである。

紅藻類は光合成の色素に赤や青のものを含むため、全体として赤い色をしている。「紫菜」(あまのり=甘海苔)、「海蘿」(ふのり=布海苔)などの類である。単に「海苔」(のり)といえば、水中の岩に付いた苔状の藻類の総称で緑藻類や紅藻類のものがある。また「心太」(ところてん)や寒天の材料となる「石花菜」(てんぐさ)や「海髪」(おごのり)、薬として使われる「海人草」(まくり)も紅藻類である。「海髪」を(いぎす)と読めば別の藻類を指す。

褐藻類には、昆布やワカメ、モズクやヒジキなどが含まれる。ワカメは「若布」と書き、昔は若返りの薬として用いられたことが由来である。食用とする藻類は総称して「海布」(め)と呼ばれ、ワカメとは、若い「海布」(め)という意味である。「搗布」(かじめ)、「荒布」(あらめ)の(め)も同じ語源である。ワカメは「稚海藻」とも書かれ、他にも「和布」「裙蔕菜」(スカートを締める帯の意味)などの表記がある。

モズクは漢名から「海蘊」と書くが、「縕」とはもつれた糸のことで、「蘊」は一字でも(もずく)と呼んで形状を表している。「海雲」あるは「水雲」とも書き、これらは雲のように水に漂う様子をイメージしている。「雲」は「蘊」の当て字でもある。

正月の飾りとして用いられるホンダワラは、ふさふさと長く伸びる様が馬の尾を思わせることから「馬尾藻」(ほんだわら)と書く。「神馬藻」(ジンバソウ)という熟字も使われるが、これは日本書紀古事記に書かれた伝説に由来する。神功皇后朝鮮半島の征伐のために九州から渡航するとき、馬のエサが不足して困窮し、そのとき海人族の勧めでホンダワラを馬に食べさせ難を逃れた。「神功皇后の率いる神の馬の食べる藻」から「神馬藻」(ほんだわら)と書くのである。よく干して食材とされるヒジキもホンダワラの仲間であり、こちらは鹿の角や尾に喩えて「鹿角菜」「鹿尾菜」(ひじき)と書く。枝分かれして伸びた姿はまさに鹿の角のようで、黒くまとまった様子が鹿の尾に喩えられた。「羊栖菜」(ひじき)とも書くが、由来は不明。