漢字と熟字訓の由来を巡る旅

漢検準1級と1級に役立つよ

67 12月の誕生石とバラ  (漢検準1級と1級に役立つよ)

 

12月の誕生石とバラ

12月の誕生石はラピス・ラズリと呼ばれる藍色の宝石で、現在は「青金石」と書く。古くから「瑠璃」(るり)の名で珍重され、これを原料とした顔料の青い色は瑠璃色あるいはウルトラマリンブルーと呼ばれる。主成分である群青の青金石に、金色の黄鉄鉱などを含むため、「星のきらめく天空の破片」と表現される。

「瑠璃(るり)も玻璃も照らせば光る」という諺があるが、これは瑠璃や玻璃(水晶のこと)が他の石の中に紛れていても光を当てると輝いていることから、「すぐれた才能や資質を備えたものはどこにいても目立つ」という意味である。

仏教では極楽浄土を飾る七つの宝を七宝といい、その種類は経典によって多少異なるが、「無量寿経」では、金、銀、瑠璃、玻璃、シャコ(=シャコ貝のこと)、珊瑚、瑪瑙の七種とされる。一方「法華経」では、金、銀、瑠璃、瑪瑙、真珠、シャコ、「玫瑰」(マイカイ)の七種とされ、どちらにも瑠璃が含まれており、古くからたいへん貴重な宝石だったことをうかがわせる。

この最後に登場する「玫瑰」とは中国でとれる赤い美石のことである。これを日本では「玫瑰」(はまなす)と読む。ハマナスは夏に真っ赤な花を咲かせるバラ科の落葉樹で、浜に自生し梨のような実をつけることから「浜梨」(はまなし)と呼ばれ、それが転じて(はまなす)になった。「浜茄子」とも書くようだが茄子とは何の関係もない。「玫瑰」と書くのはその真っ赤な実を、宝石に喩えられたからと考えられる。ちなみに英語ではその実を“rose hip”というが、この”hip“はお尻とは関係なく、バラの実を表す英単語である。

「薔薇」(バラ)という字は読めても、書くのはなかなか難しい。またそれぞれの漢字は「薔」(みずたで)、「薇」(ぜんまい)と読み、これを並べてもバラの花のイメージは全くない。漢語ではもともと「墻蘼」(ショウビ)と書いて、垣根に萎靡する(寄りかかる)草を意味していた。これが音から転じて「薔薇」と書くようになったのである。バラ科の植物は非常に多様で多岐にわたるが、基本的に5枚の花弁を持ち(梅や桜のように)、萼の根元が子房を取り囲んでいるのが特徴である。バラの花弁が5枚と言われても納得し難いと思うが、バラの原種は花弁が5枚なのである。

山吹色という色があるが、赤みがかった濃い黄色の花をつける「山吹」(やまぶき)もバラ科の花である。「款冬」(やまぶき)とも書くのだが、これは誤用による。もともと「款冬」は「冬を款く(叩く)」という意味から、極寒を凌ぐ植物「蕗」(ふき)のことを指していた。「蕗」は「山蕗」(やまふき)とも言い、これが平安中期の詩歌集『和漢朗詠集』でバラ科の「山吹」(やまぶき)と混同されて以来、「款冬」(やまぶき)と読んで山吹のことを指すようになってしまった。このほか、バラ科の花の熟字訓がいくつかある。

「七竃」(ななかまど)は夏に白い花を房状に咲かせるが、花よりも秋の赤い実と紅葉で知られた植物である。たいへん燃えにくく、7度「竃」(かまど)に入れても燃えきらないとしてこの名となった。漢名から「花楸樹」(ななかまど)と書く。

「雪柳」(ゆきやなぎ)は春になると白い小さな花を枝垂れた枝一面につけ、柳の木に雪が降り積もったように見える。漢名からは「噴雪花」(ゆきやなぎ)とも書き、雪を噴き出しているように捉えたようだ。現代中国語では「珍珠花」と呼ばれ、「珍珠」とは「真珠」のことである。「小米花」(ゆきやなぎ)と書くのは、この白く小さい花を米に見立てたものである。

「蜆花」(しじみばな)も多くの白い花を枝一面につけるので、一見ユキヤナギのように見える。ユキヤナギの花が5弁なのに対して、シジミバナはバラのように八重咲きであることが違いである。この花の形を蜆(しじみ)の肉に喩えたことから「蜆花」なのだが、漢名からは花の中央にある窪みを「笑靨」(えくぼ)に見立てて「笑靨花」(しじみばな)と書く。