漢字と熟字訓の由来を巡る旅

漢検準1級と1級に役立つよ

59 9月の誕生石と青  (漢検準1級と1級に役立つよ)

 

9月の誕生石と青

コランダム酸化アルミニウムの結晶)のうち、赤以外の色を放つ宝石はすべてサファイアと呼ばれるので、サファイアには青のほか、黄色やオレンジ、ピンク、紫の石がある。このうち青いものが最も高級とされ、9月の誕生石もブルー・サファイアである。サファイアは色に関わらず「青石」と書く。

青い花(紫ではなく)と言えば、一面に青く広がるネモフィラの花畑が昨今全国各地で人気となっている。ギリシャ語の森(ネモス)を愛する(フィレオ)に由来する名前だが、瑠璃色をした花を咲かせ、細長くて切れ込みのある葉が唐草模様のようであることから「瑠璃唐草」(るりからくさ)の和名を持つ。

「勿忘草」(わすれなぐさ)も青い可憐な花で、この名はドイツの詩人が作った物語による。恋人に花を摘もうと足を滑らせて水に落ち、命を落とした青年が、最後の力を尽くしてこの花を岸に投げ、「私を忘れないで」と言葉を残したという。ここから英語でも“forget me not”、これを日本語に訳して「忘れなぐさ」となった。

「青」の漢字を使う植物は少なく、いずれも青い花を咲かせるわけではない。

オモトは根茎が太いことから「大本」で、これが転じてオモトと呼ばれるようになった。山地に自生するユリ科の常緑多年草で、もっぱら葉の姿を鑑賞する観葉植物で、花や実を楽しむことはない。常に青々として真冬でも衰えず、生存期間が長いことから「万年青」(おもと)と書く。ここに「浜」の字が付くと「浜万年青」(はまおもと)だが、これを「浜万年青」(はまゆう)と読む。ハマユウの肉厚で長い葉がオモトによく似ていることに由来し、日当たりの良い温暖な海浜で育つので「浜」の字が付いた。ハマユウヒガンバナ科の植物で、ヒガンバナのように細い花弁をして、白い花を咲かせる。「浜木綿」とも書くのだが、ここでの「木綿」は(もめん)ではなく(ゆう)と読んで、「楮」(こうぞ)の樹皮の繊維を細かく割いて作った白い糸のことである。細くて白い花弁の様子をこの「木綿」(ゆう)に例えたのである。また漢名からは「文殊蘭」(はまゆう)と書く。

ソヨゴはモチノキ科の常緑樹で、「風に戦(そよ)ぐ木」という意味である。冬でも青々としていることから「冬青」(そよご)と書く。ちなみにモチノキという名は樹皮から「鳥黐」(とりもち)を作ることによる。モチノキ科の植物は花が小ぶりで目立たないものの、どれも真っ赤な実をつける。霜が降りる頃にこの実が色付くことから「落霜紅」と書いて(うめもどき)と読む植物がある。梅に似た葉を持つことから(ウメモドキ)=「梅擬」である。またこのウメモドキに実の姿が似ているものの、色が黒いことからクロウメモドキと呼ばれる植物もあるのだが、漢名の誤用から「鼠李」と書いて(くろうめもどき)と読む。