漢字と熟字訓の由来を巡る旅

漢検準1級と1級に役立つよ

6 ユリとアスパラガス  (漢検準1級と1級に役立つよ)


ユリとアスパラガス(ユリ科

ユリの語源は花が風に揺れる様子から「揺り」になったと言われている。ユリの仲間は一般に球根が発達するが、これは鱗茎といって実は葉(鱗葉)が多数重なり合ったものである。「百合」と書くのもこれに由来する。ユリの中でもオニユリの球根はユリネとして食されるほか、「百合」(ヒャクゴウ)という生薬になる。そのオニユリは「鬼百合」あるいは「巻丹」と書く。「丹」は赤い色で、「巻丹」とは赤い花弁がくるりと裏返るくらいに巻いてしまう姿からである。ちなみにヒメユリは「姫百合」のほか「山丹」と書く。また「姥百合」(うばゆり)は「花が盛りの頃にはもう葉(歯)が枯れてなくなり出す」という語呂合わせから、「姥」(うば:字の如く老女のこと)の名がついたという。

ユリの仲間に「貝母」(ばいも)という種類がある。花は下を向いて咲き、その姿は編み笠のようなので別名「編み笠百合」とも呼ばれる。球根が子貝を集めたように見えることから「貝母」という名がついた。これに「蕎麦の葉」が付いて「蕎麦葉貝母」と書くと(うばゆり)と読む。たいへん難読の熟字だが、ウバユリはユリ科の植物にしては珍しく、大きなハート型の葉を持っている。これが蕎麦の葉のようであることから「蕎麦葉貝母」となったのだ。

ユリ科の花は基本的に内側に3枚、外側に3枚、計6枚の花弁を持つ。チューリップ、ヒヤシンスなどもユリ科に属し、球根の発達するものが多い。球根を食する「葱頭」(たまねぎ)、「大蒜」(にんにく)、「野蒜」(のびる)、「辣韭」「辣韮」(ラッキョウ)などはいずれもユリ科の植物である。このうちニンニクは強烈な匂いを発することから「忍辱」(耐え忍ぶ)が語源とされる。もともとニンニクやノビルなど総称して「蒜」(ひる)と呼んでいたものが、古代中国の漢朝の頃、中央アジアから入ってきたニンニクを「大蒜」(タイサン)、在来のものを「小蒜」と呼んで区別した。これが「大蒜」(にんにく)と書くようになった由来である。「蒜」や「葫」は一字でも(にんにく)と読む。

また「葱」(ねぎ)や「韮」(にら)、「浅葱」(あさつき)などもユリ科の植物だが、こちらはもっぱら葉を食用にする。「浅葱」(あさつき)はネギの一種で、色がネギに比べて浅い緑色をしていることからこう呼ばれる。また葉が細いことから別名「糸葱」(いとねぎ)(いとつき)ともいい、「糸葱」と書いて(あさつき)とも読む。ちなみに「浅葱」という字を(あさぎ)と読んだ場合は色の名称となり、アサギ色とはやや緑がかった青い色である(あさつきの色とは少し違う)。このほか、茎を食するアスパラガスもユリ科の植物で、この根を乾燥させたものは「石刁柏」(セキチョウハク)という生薬として使っていたことから、「石刁柏」と書いてアスパラガスと読む。

チューリップは「鬱金香」と書き、園芸種としてたいへん親しまれ、現在その品種は数百にのぼる。「鬱」という漢字の部首「鬯」は(においざけ)と言って、香草で香りをつけた酒のことである。これをかめ(缶)に入れたものが木々の中で香る様子(彡が香りの発散を表す)から「鬱」という字が成り立っている。古代中国ではその香草としてチューリップが使われていたといわれ、チューリップの花を混ぜた鬱金香という酒もあるほどである。ちなみに「鬱金」(うこん)はショウガ科の植物で、鮮やかな黄色という意味である。生薬、香辛料、着色料として用いられ、カレーが黄色いのはこのウコン(英名ターメリック)による。

ヒヤシンスは「風信子」と書くが、これはヒヤシンスという音からの当て字である。また古代ギリシャではジルコンという宝石のことをヒヤシンスと呼んでいたことから、「風信子石」(ヒヤシンスいし)とはジルコンの和名である。

よく仏像が手にしている先の尖った珠がある。「如意宝珠」(にょいほうじゅ)と呼ばれる宝石で、あらゆる願いを叶えると言われ、仏教では最上の宝である。仏塔の頂上や橋の欄干の上には、この宝珠に肖って「擬宝珠」(ぎぼうし)というものが飾られる。ユリの仲間には、蕾の形がこの擬宝珠に似ていることから「擬宝珠」(ぎぼうし)と名付けられた花がある。漢名からはこの蕾を玉の簪に見立てて「玉簪花」(ぎぼうし)と書く。

最後にもうひとつ、一見「仙人掌」(サボテン)の仲間のように見えるアロエユリ科の植物である。古くから薬草として内用、外用(火傷など)に用いられ、「医者要らず」の俗称もあったほどだが、実際には緩下剤としての効果を持つ程度で、火傷などへの効果は不明である。漢字では、ラテン語アロエを中国語に音訳した「蘆薈」(ロエ)と書いて(アロエ)と読む。和名でアロエをロカイと言うが、これは「蘆薈」の読み間違いからである。