漢字と熟字訓の由来を巡る旅

漢検準1級と1級に役立つよ

7 おとぎりそうとマンゴスチン  (漢検準1級と1級に役立つよ)




おとぎりそうとマンゴスチン(オトギリソウ科)

弟切草」(オトギリソウ)は夏の草地で黄色い5弁の花を付ける多年草で、葉を透かして見ると油点と呼ばれる黒い点が多数散在するのが特徴である。この葉には止血・鎮痛などの効果があるため、古くから傷薬として用いられてきた。その昔、晴頼という鷹匠がおり、業に精通していること神のごとくであった。鷹の傷を癒すためにこの草を用いていたのだが、秘して誰にも教えなかった。ところがその秘密を彼の弟が他人に漏らしてしまったことから、晴頼は怒りのあまり弟を切り殺してしまう。このときに飛んだ血しぶきがこの油点になったという。この言い伝えから「弟切草」という名が付いた。漢方では「小連翹」(ショウレンギョウ)という名で鎮痛薬として用いられ、このため「小連翹」と書いても(おとぎりそう)と読む。

同じオトギリソウ科に「巴草」(ともえそう)という花がある。5枚の黄色い花びらが巴のよう(スクリュー状)にねじれていることから「巴」の名がついたのだが、これを中国では「連翹」あるいは「大連翹」と呼ぶ。「巴草」の花弁は直径が5cmほどにもなるのに対し、「弟切草」は2cmほどの小さな花なので「小連翹」なのである。ただし、日本で「連翹」(れんぎょう)といえば、早春の頃、4弁の黄色い花を咲かせるモクセイ科の植物で、この植物の実も漢方薬として使われていたことから混同されたようである。ちなみに「連翹」とは、種子が多数連なり、翹(鳥の尾の翅)のようなものがある姿を表現している。

「金糸梅」(キンシバイ)と「金糸桃」(キンシトウ)も、ともにオトギリソウ科の植物である。キンシバイ梅の花を黄色くしたような5弁の花で、花の中からはたくさんの長く黄色い「雄蕊」(おしべ)が伸びる。これが金の糸を思わせることから「金糸梅」と呼ばれた。一方の「金糸桃」(キンシトウ)も「金糸梅」によく似て、黄色い花弁と黄色い雄蕊の際立つ花だが、こちらは「金糸梅」に対比して桃の花に準えた。キンシトウはビヨウヤナギという名でよく知られた花で、「金糸桃」と書いて(びようやなぎ)とも読む。ビヨウヤナギとは「美容柳」、つまり柳のような葉をもつ美しい花という意味である。ただし、もともとビヨウヤナギは「未央柳」であり、音から転じて「美容柳」と書かれるようになった。

中国の有名な詩人 白楽天の「長恨歌」という詩の中に、玄宗皇帝が亡き楊貴妃を偲んで、「太液の池の芙蓉(蓮の花)が楊貴妃の顔に、未央宮殿の柳が楊貴妃の眉に見え、涙が止まらなくなった」という一節がある。美しい花と柳のような葉を持つこの植物を、この詩になぞらえて「未央柳」と呼ぶようになったのである。

この他オトギリソウ科には、マンゴスチンという東南アジア原産の果物が属している。堅い果皮に包まれるが、その実は柔らかく、果物の女王と称されるほど上品で美味とされる。かつて、7つの海を制した大英帝国ビクトリア女王が「我が領土にあるマンゴスチンをいつも味わえないのは遺憾である。」と言ったとの逸話もあるくらいである(当時、東南アジア諸国はイギリス統治下にあった)。マンゴスチンは漢名から「都念子」と書くが、これは「倒捻子」の音が転じたものである。果実の頭には柿のような四枚の蔕(へた)があって、食べるときには必ずその蔕を捻って倒す。それで「倒捻子」と呼ぶのだそうだ。「子」は木の実のこと指している。