漢字と熟字訓の由来を巡る旅

漢検準1級と1級に役立つよ

65 11月の誕生石と黄色  (漢検準1級と1級に役立つよ)

 

11月の誕生石と黄色

緑玉(エメラルド)、赤玉(ルビー)、青玉(サファイア)とくれば、「黄玉」もあって(トパーズ)と読み、11月の誕生石である。トパーズは「黄玉」と書くものの青やピンク、橙から褐色のものまであり、淡褐色(琥珀色)のものが最も高級とされている。ちなみに琥珀とは太古の針葉樹林が分泌した樹液の化石で、古代中国ではトラの魂が死後石になったという伝説があり、「虎魄」が転じて「琥珀」と書くようになった。

黄色い花には「金」を使うことが多いが、「黄」を使った難読の熟字訓もいくつかある。

ハマボウは「浜に生える朴の木」を意味して「浜朴」が和名の由来とされ、「黄槿」(はまぼう)と書くのは、花が「槿」(むくげ)に似て、黄色いことによる。また「黄蜀葵」(とろろあおい)も花が「蜀葵」(たちあおい)に似て、花が黄色いことからで、「とろろ」と付くのは、根や茎、果実をすり潰すととろろのような粘液が出ることによる。どちらもアオイ科の植物である。

「三椏」(みつまた)は樹皮の繊維が非常に強靭で、古くから和紙の原料として重用されてきた。枝が三又に分かれることからミツマタと呼ばれる。「瑞香」(ジンチョウゲ)科の植物で、枝の先に球状に集まった花を咲かせるが、色が黄色いことから「黄瑞香」(みつまた)と書く(瑞香の花は紫)。

マメ科の植物に「連玉」「列珠」(れだま)という木がある。地中海沿岸が原産の落葉低木で、初夏になると黄色く蝶形の花を咲かせる。「連玉」と書くのは「連なる玉」の意味ではなく、スペイン語“retama”(エニシダのこと)の音訳である。これに似た花をつけることから、またレダマの木本に対し、草本であることから「草連玉」(くされだま)というサクラソウ科の花がある。黄色い花を咲かせるので漢名からはこれを「黄連花」(くされだま)と書く。

「黄精」とは本来「鳴子百合」(なるこゆり)の根のことで、古くから滋養、強壮、強精に用いられてきた。中国古典では「体力を培養し、白髪を蘇らせ、歯の抜けたるを生き返らせる」とまで書かれている。「黄」と付くのはその根の色からだが、一説には精を出し過ぎて、物が黄色く見えるのを回復させるからだとも言われている。「黄精」で(なるこゆり)と読む。

また「黄楊」と書いて(つげ)と読む。春、淡黄色の小花を束生させること、用材が固くて黄色いことから「黄」の字がついている。ツゲは日本にある木材の中で最も緻密で均一な材質であり、櫛や印鑑、将棋の駒などに用いられてきた。「柘植」(つげ)とも書いて、「柘」とは石のように硬い木の意味である。ところで、「楊」とは(やなぎ)のことである。ヤナギと言うと川辺や街路樹としてよくみかける枝垂れたヤナギが想像されるが、ヤナギの仲間には丸い葉をしたものや枝垂れずに枝が上へと伸びていくものも多い。高さが20mにもなるポプラと呼ばれる落葉高木もヤナギ科の代表的な植物である。漢字でも枝垂れるヤナギには「柳」を使い、枝垂れないヤナギは(あがる)のイメージを持つ「昜」を用いて「楊」と書く。ツゲはヤナギの仲間ではないが、漢名で「黄楊」と書くのは上へ上へと伸びていく「楊」に見立たてのだろう。

この他、「黄」を使った熟字は植物だけにとどまらない。

「黄昏」(たそがれ)とは、輝く太陽が傾いて、辺りが徐々に黄色く昏くなった時分のことである。人に出会っても誰かわからず、「誰だろう、彼は」という意味の「誰そ彼」が(たそがれ)の語源とされ、万葉集の中でも使われている。反対に明け方の薄暗い時を「彼は誰」(かわたれ)というが熟字は特にない。

また「黄泉」(よみ)とは死者が行くとされる世界のことで、地下にあるとされている。五行思想で「黄」は土に当たり、地下(黄)の泉という意味から「黄泉」と書く。