漢字と熟字訓の由来を巡る旅

漢検準1級と1級に役立つよ

25 苦い植物と酸っぱい植物  (漢検準1級と1級に役立つよ)

苦い植物と酸っぱい植物

植物の茎や葉は大なり小なり苦いものだが、その中でも特に苦い植物はそれに因んだ名称を持つ。

「苦い」という字をそのまま使う植物には「苦瓜」「苦菜」「苦木」などがある。

「苦瓜」(にがうり)は(ゴーヤ)とも読んで、その炒め物はゴーヤチャンプルとして沖縄料理の定番である。「苦菜」(にがな)はキク科の多年草で、黄色い5~7弁の花を咲かせる。同じニガナでも花弁が8~11枚のものは「ハナニガナ」と呼ぶ。茎や葉から出る白い汁が苦いことから苦菜なのだが、漢名からは「黄瓜菜」(にがな)とも書く。

「苦木」(にがき)はその名の通り木全体が苦い。この樹皮を乾燥させたものは「苦木」(クボク)と呼ばれ、健胃薬として用いられてきた。漢名からは、葉が「楝」(せんだん)に似ていることから「苦楝樹」(にがき)とも書く。一般に苦い植物には胃液の分泌を促進し、胃腸の蠕動運動を亢進させる作用がある。これを漢方では苦味健胃と呼んで古くから胃薬として用いてきた。

リンドウもたいへん苦い植物として知られている。漢方では熊の胆嚢を「熊胆」(ユウタン)あるいは「熊の胆」クマノイと言って薬に使っていた。消炎、解熱のほか、その苦さゆえ苦味健胃にも用いられた。リンドウはこの熊の胆よりもさらに苦く、まるで「竜の胆」のようだから「竜胆」(りんどう)と書くようになったのだ(一説には竜葵の葉に似るからとも)。またセンブリもリンドウ科の極めて苦い植物で、千回煎じてもまだ苦いことから「千度振り出し」の意味で「千振り」と名付けられた。別名 当薬と呼ばれ、これは「まさに当たる薬」つまりよく効く薬と言う意味である。リンドウ、センブリの薬効はやはり苦味健胃である。

またクララはマメ科の植物で、目がくらくらするほど苦いことから命名された。その根は人参に似ていることから「苦参」(クジン)と呼ばれ、消炎、抗潰瘍に用いられる他、やはり胃薬になる。ここから「苦参」と書いて(くらら)と読み、「眩草」(くららぐさ)とも呼ばれる。絶滅危惧種であるオオルリシジミという蝶はこの植物のみを食物とすることで知られている。

もうひとつ、シソ科の「引起」(ひきおこし)という植物も苦いことでは他の植物にひけをとらない。病床にある人でもこの生薬を飲ませると、たまらず起き上がるほど苦いことからこの名になった。一説には、弘法大師が山道で倒れていた修験者にこの草の汁を飲ませたところ、たちまち元気になったという逸話に由来するとも言われている。この故事から「延命草」という別名を持つのだが、薬効としてはやはり苦味健胃としての胃腸薬でしかない。

一方、酸っぱい植物といってまず思い浮かぶのが、「檸檬」(レモン)や「酢橘」(すだち)などの柑橘類で、植物の実は酸味をもつのが普通である。これに対して茎や葉に酸味をもつことから名付いた植物がある。

スイバはタデ科多年草で、スカンポという名で葉茎を食用にする。葉に酸味があることから「酸葉」「酸模」(すいば)と書くが、通常「酸模」と書けば(すかんぽ)と読んで、イタドリ(タデ科)の別名でもある。幼茎がアスパラガスのような姿をしていて山菜として食される。

カタバミカタバミ科の植物で、ハート型をした葉や茎に酸味があり、「酸漿草」と書いて(かたばみ)と読む。カタバミの名はそのハート型の葉を夜になると閉じ、葉が半分食べられたように見えることから「片食み」「傍食み」と呼ばれる。「鳩酸草」(かたばみ)の熟字訓は漢名から。