漢字と熟字訓の由来を巡る旅

漢検準1級と1級に役立つよ

24 セリとニンジン  (漢検準1級と1級に役立つよ)

セリ科

セリ科の植物は独特な芳香をもつのが特徴で、このためハーブやアロマオイル、あるいは薬草としても重用されている。代表的なセリ科の植物には、セリのほか、ニンジン、セロリ、パセリ、ミツバなどがあり、いずれも青臭い匂いがするので、これを嫌う人も多い。ちなみにカメムシはセリ科の植物を好み、この臭い成分をからだの中で凝縮しているために、強い臭さを放つそうである。 

子どもが嫌う野菜のたいてい上位に挙がる「人参」(ニンジン)だが、ビタミンやミネラルが豊富で非常に栄養的価値は高い野菜である。もともとは「人参」と言えば「高麗人参朝鮮人参)」のことを指していて、日本でも古くから薬としてたいへん珍重されていた。「人参」の「参」は本来「蔘」と書き、一字でも(にんじん)と読む。「参」は「三」を意味する漢字で、古来東洋では「三」という数字は完璧を意味する最もよい数字であるとされていた。この「参」に草冠を載せたのが「蔘」で、完全で非常によい薬であることを表したものと考えられる。高麗人参の根が二股に分かれる姿が人に似ていることから「人」の字が付いて「人蔘」と呼ばれるようになった。あとから入ってきたいわゆる西洋人参の色や形、薬効がこれに似ていたために共通の呼び名となったのである。ただし高麗人参はセリ科ではなく、ウコギ科に属する植物である(セリ科とウコギ科は近縁)。中国ではニンジンを「胡蘿蔔」(コラフク)と書いて、胡(中央アジア)からきた「蘿蔔」(だいこん)と表現される。

「羊乳」(つるにんじん)という植物がある。キキョウ科の植物で、茎や根の薬効が人参に近く、蔓性の植物なので「蔓人参」である。夏から秋に5弁の小さな白花を開いて角(さや)を結ぶが、その角が羊の角に似る。また根や茎を折ると白い汁が出ることから、これを乳にみたてて「羊乳」と書いた。

「芹」(せり)は「芹子」あるいは「水芹」とも書いて、一般に川辺や湿地に繁茂する。密集し、「せり合って」生えることからセリと呼ばれた。これに対して平地に生えるものは「旱」(かわく)+「芹」から「旱芹」(おかせり)と言う。

セロリはオランダミツバとも呼ばれ、江戸後期にオランダ船によって日本に運ばれた。別名 清正人参(きよまさにんじん)とも言い、加藤清正文禄・慶長の役の際に朝鮮半島から持ち帰ったとも言われている。「塘蒿」(セロリ)と書くのは、塘(つつみ)つまり河や湖などの岸辺に繁茂する、蒿(よもぎ)のような葉をしたセロリの特徴を表している。

一方、パセリは、地中海地方(北アフリカ)原産で、こちらもオランダ経由で日本に入ってきた。そのため和名を和蘭芹(オランダせり)と言い、「和蘭芹」と書いて(パセリ)と読む。漢名からは「旱芹菜」とも書く。

香りがよいため汁物によく添えられるミツバは、日本原産である。葉が3つに分かれていることから「三つ葉」というのだが、これを葵の葉に見立たてたのか漢名からは「野蜀葵」(みつば)と書く。ちなみに「蜀葵」だけでは(たちあおい)と読み、これは一般にアオイとして知られる植物である。まっすぐに立つ茎が2~3mにもなるためタチアオイと呼ばれるが、三国時代の一国「蜀」の葵という意味で「蜀葵」と書かれた。

最後にもうひとつ、セリ科にアシタバという名の植物がある。たいへん生長が早いため、若芽、稚葉をつんでも、次の朝には新しい芽、葉が出ていることから「明日葉」の名がついた。海辺に育ち、味にやや塩気があることから「鹹」(しおからい)+草で「鹹草」と書いて(あしたば)と読む。