漢字と熟字訓の由来を巡る旅

漢検準1級と1級に役立つよ

23 柑橘類  (漢検準1級と1級に役立つよ)

柑橘類

柑橘類とは読んで字の如く「蜜柑」(みかん)や「橘」(たちばな)の類である。

タチバナは日本に古くから野生していた日本固有の柑橘類で、その伝説が日本書紀にも登場する。その昔、田道間守(たぢまもり)という人物が垂仁天皇に、「非時香菓」(ときじくのかぐのこのみ)という霊薬をみつけるよう命じられた。「非時香菓」とはいつまでも長く香りを保つ実のことである。彼は海を渡り唐や天竺を10年もさまよった末、ようやく非時香菓を持ち帰ったが、天皇は彼の帰る前年に崩御していた。嘆き悲しんだ彼は御陵にこれを献じて殉じたという。非時香菓とは橘のことであり、「田道間花」(たぢまはな)がタチバナの語源だという。天皇が九年間彼のことを案じていたことから橘のことを、「九年母」(くねんぼ)とも呼ぶ(異説あり)。その実はミカンに似るものの酸味が強く食用には適さないが、香気が高く常緑であることが不老不死を象徴して、中国の宮城や京都御所紫宸殿の前庭などに植えられている。クネンボは「香橘」とも書く。「乳柑」と書いても(形からだろう)日本では(くねんぼ)と読むが、これは中国でポンカンを意味するので誤用である。中国語でポンカンは「凸柑」「壷柑」とも書いて、その実の形をよく表している。これを日本では「椪柑」(ぽんかん)と書く。

スダチは「酢橘」「酸橘」と書き、酸味が強いことを表している。カボスはスダチと混同されやすいが、どちらも「柚子」(ゆず)の近縁種である。「蚊+いぶす」からカボスになったとされ、「臭」+「橙」(だいだい)で「臭橙」(かぼす)と書く。ここでの「臭」の字は香りを表すものであり、「くさい」の意味ではない。

「橙」(だいだい)は果実が熟したあとも木に成らせておくと、翌年には再び青くなる(回青現象という)。この現象が若返りを連想させる上に、一度付けた実が4~5年なり続けることから「代々」の名が付いた。「代々つながって縁起がよい」から正月の飾りに使われるわけで、蜜柑を飾ったのでは意味をなさない。ちなみに「甜橙」と書けば(オレンジ)と読む。

カラタチは「唐橘」(からたちばな)が詰まったものと言われ、唐代のころ日本に入ってきた。柑橘類ではあるが、ミカン属ではない(カラタチ属)。その実は酸味が強いため食用にはならないが、枝には鋭い棘があるので、生垣としてよく用いられた。春には白い花を咲かせ、秋になると実ができる。この実は「枳実」(きじつ)と呼ばれ、若い間は皮が厚くて充実している。熟すると殻は薄くなって空虚となり、これを「枳殻」(キコク)と呼んだ。「枳殻」は生薬として重用されていて、ここから「枳殻」と書いて(からたち)と読む。「枳」はもともとカラタチの木を意味する漢字でもある。またカラタチの特徴から、「枸」(枝が曲がりくねっている)+橘で「枸橘」とも書く。ちなみに「枸杞」(くこ)というナス科の植物は、カラタチ(枸橘)のような棘があり、コリヤナギ(杞)のように枝がしなやかであったことから「枸杞」と言う。

ザボンは「文旦」(ブンタン)とも呼ばれる東南アジア原産の柑橘類で、江戸時代初期に日本に伝わった。清国の船が遭難した際、日本に助けてもらった礼として、「朱欒」(シュラン)と「白欒」(ハクラン)が贈られた。以前は中身の赤いものが「朱欒」(ザボン)で、白いもの(白欒)を文旦と呼び分けていた。文旦とは助けられた船長の名前である。その実は1kgから2kgにもなる巨大な果物である。夏蜜柑やグレープフルーツ、「八朔」(はっさく)などの比較的大きな柑橘類はたいていザボンの血を引いている。ちなみに「八朔」とは八月の朔日(一日)の意味で、「八月一日には食べられる」と言われたことに由来する。