漢字と熟字訓の由来を巡る旅

漢検準1級と1級に役立つよ

22 金と銀  (漢検準1級と1級に役立つよ)

金と銀

オリンピックでメダルに使われるためか、金、銀、銅は金属の中でも特に親しみのある存在である。古代より貴金属として、また貨幣として、これらの金属は人類と深く関わってきた。「金」は(こがね)とも読み、「黄金」(こがね、おうごん)という言葉があるように、色としては金属のような光沢のある黄色を表す。「銀」は(しろがね)と読み、光り輝く白を指し、「白銀の世界」、「銀盤の女王」のように使われる。ちなみに「銅」は(あかがね)、「鉄」は(くろがね)と読む。

「金」は黄色に通じる色なので、鮮やかな黄色の花の名によく使われる。キク科の中に「金盞花」(きんせんか)という花があるが、多数の黄色い花びらが盞(さかずき)状に見えることからこの名が付いた。春に咲く一年草だが、比較的長い期間咲いていることから「長春菊」(きんせんか)とも書く。一方「銀盞花」(ぎんせんか)は白い花で、5枚の花弁をもつアオイ科の質素な花である。こちらは花の寿命がたいへん短く、朝露のある時間帯だけ咲く花なので「朝露草」(ぎんせんか)とも書く。

モクセイ科の代表的な植物には「金木犀」(きんもくせい)と「銀木犀」(ぎんもくせい)がある。キンモクセイは秋になるとオレンジ色をした小さな花を多数咲かせて、強い芳香を放つことでよく知られる。「丹桂」(きんもくせい)とも書くが、日本で「桂」という字は(かつら)と読んで、カツラ科の樹木を表している。ところが、中国で「桂」と書けば「木犀」(モクセイ)のことなのである。中国屈指の景勝地「桂林」の名も木犀の木がたくさん生えていることに由来する。本来は黄色のものが「金桂」(きんもくせい)、白いものが「銀桂」(ぎんもくせい)、赤いものが「丹桂」であるが、日本では「丹桂」(きんもくせい)と書くのが一般的である(やや赤みがかった黄色の花弁をしている)。一方、ギンモクセイは白色で、花の数も少なく香りも弱い地味な花である。しかし単に「木犀」(もくせい)といえばこのギンモクセイのことで、「木犀」と書くのは樹皮が犀(さい)の皮に似ているからだと言われている。

初めは白い花を咲かせるが、だんだんと黄色く色付いていく「吸葛」(すいかずら)という花がある。一つの茎に二つずつ花を付け、時期によっては白と黄色の花が並んで見られる。この姿からスイカズラは「金銀花」(キンギンカ)とも呼ばれる。「吸葛」の名は、昔からこの花を口にくわえて蜜を吸っていたことに由来するが、冬でも葉が枯れないことから「忍冬」(ニンドウ=冬を耐え忍ぶ)と書いても(すいかずら)と読む。

「金縷梅」(まんさく)は早春の頃、枯れ木の中から、葉に先駆けてひも状の黄色い花を無数に咲かせる。春になると「まず(まんず)咲く」からマンサクである。「金縷」とは黄色い糸の意味である。枝いっぱいに咲く花が豊年満作を思わせることから「満作」とも書く。

エニシダも輝くような黄色の花を春一斉に咲かせる植物である。蝶形をした黄色い花の並んだ様子が、雀が群れて枝にとまっているように見えることから「金雀枝」あるいは「金雀児」と書いて(エニシダ)である。また日本には古くから「群雀」(むれすずめ)と呼ばれるエニシダによく似た花があるが、これを中国語では「金雀花」と書く。エニシダ、ムレスズメは同じマメ科の植物である。

この他、「金鳳花」(きんぽうげ)、「金糸梅」(キンシバイ)や「金糸桃」(びようやなぎ)などが金の名を持つ美しい黄色の花である(既出)。

話は変わって、金魚はフナの突然変異である。フナの黒い色素が欠落し、赤い色をした緋鮒(ひぶな)をもとに品種改良と突然変異を重ねて、現在金魚は100種を超える。金色(黄色)でもないのに金魚というのは、当初は赤いフナがたいへん珍しく貴重であったため、金のように高価な魚とされていたからである。

一方、「銀魚」と書くと(しらうお)と読む。「白魚」とも書くが、漢名からの熟字訓で「膾残魚」と書いて(しらうお)と読む。三国時代の呉の国王が膾(ここでは刺身のこと)を食し、その残りを河に棄てたところ、化して魚となった、という逸話があり、「膾の残りの魚」なのである(『和漢三才図絵』)。ちなみにこのシラウオシラウオ科)と名前の紛らわしいシロウオは全く別種の魚(ハゼ科)で「素魚」(しろうお)と書く。