漢字と熟字訓の由来を巡る旅

漢検準1級と1級に役立つよ

21 馬とブランコ  (漢検準1級と1級に役立つよ)





馬とブランコ

 馬は人類と最も付き合いの長い動物のひとつである。走ることにかけては哺乳動物の中で最も高度に進化したと言っても過言ではなく、その走る姿はたいへん優美である。ウマには多くの品種があり、また毛色によっても様々な呼び方をされてきた。

最も一般的な毛色は茶褐色だが、全身が褐色の馬は「騮」(くりげ)=栗毛と言い、体は褐色でも「鬣」(たてがみ)や尾、足首に黒い毛が混じったものは「鹿毛」(かげ)と呼ばれる。全身純黒色の馬は「驪」(くろうま)で、赤褐色の馬は「騂」(あかうま)あるいは「驊」(あかげ)である。全身真っ白なら「白毛」(しろげ)だが、もと青馬(青みがかった黒い馬)を使っていた宮中行事で、白い馬を使うようになったものの、そのまま(あおうま)と呼ばれたため、「白馬」と書くと(あおうま)と読む(もちろん「ハクバ」とも読む)。また体が白く、鬣、尾、足首の黒い馬は(かわらげ)=河原毛といって「駱」と書く。「騅」(あしげ)=葦毛といえば白の中に黒、茶の混じった馬を指し、その反対に白毛の混じる茶色い馬は「驃」(しらかげ)=白鹿毛と呼ばれる。これが雑然と混じってしまえば、「駁」(まだら)である。この他、黒みどりの馬には「騏」、黒栗毛には「驔」、クリーム色の毛色を指す「月毛」(つきげ)には「騢」など(「騏」「驔」「騢」には訓の読みはないが)、馬の毛色にまつわる漢字はけっこう多い。

 ウマの仲間(ウマ科ウマ属)には、「縞馬」「斑馬」(しまうま)と「驢馬」(ロバ)が属するが、シマウマは決して人に懐かないため家畜にされることはなかった。どんな動物も、人に「馴」れる(なれる)習性がないと家畜にはできない。

ロバは走ることではウマにはかなわないものの、粗食で忍耐強くしかも丈夫であるためもっぱら荷を運ぶために用いられてきた。雌ウマと雄ロバの間にできた雑種はラバと呼ばれ、漢字では「騾馬」(ラバ)と書く(英語で“mule“)。ウマとロバの長所を併せ持つためよく交配されるが、ラバには繁殖力がない(つまり、新品種にはならない)。一方、雄ウマと雌ロバの間に生まれた雑種は「駃騠」(ケッテイ)と言う(英語で”hinny“)。たいへん育てにくく、体も小さいので、交配されることはほとんどない。ラバと名前の紛らわしいラマは南米の高地に棲む動物で「駱駝」(ラクダ)の仲間である。漢字では、洋(海外の)+駝(駱駝)の意味で「洋駝」(ラマ)と書く。

 馬は走るために飼い馴らされてきた動物で、そういう事情が馬偏の漢字にもよく表れている。「馳せる」「駛せる」「騁せる」「驟せる」は(はせる)、「駆ける」「駈ける」「騫ける」は(かける)と読み、走る姿を彷彿させる。激しい勢いで進んでいくことを「驀進」(ばくしん)すると言い、「驀地」と書けば(まっしぐら)と読む。足の速い馬は「駿馬」(シュンメ)と呼ばれ、のろい馬は「駑馬」(ドバ)あるいは「駄馬」(ダバ)である。ちなみに「野馬」と書くと馬の種類ではなく(かげろう)と読む。野を馬が駆けるように空気がゆらゆらと揺らめく様子からこう書く。

 馬を快適に走らせるには馬具が必要で、馬具は主に革で作られていたため「革」偏の漢字にその名残がある。「鞍」(くら)や「鞭」(むち)もそうだが、「靴」という字も本来は皮製の乗馬靴のことだった。「面繋」(おもがい)は馬の頭から轡(くつわ)にかけて繋ぐ皮ひもで「覊」(おもがい)(たづなとも読む)、「胸繋」(むながい)は胸から「鞍」(くら)に掛け渡す皮ひもで「鞅」(むながい)、同様に「尻繋」(しりがい)は尾から鞍にかける皮ひもで「鞦」(しりがい)という字がある。「秋」という漢字には(シュウ)という音と、「ぐっと引き絞る」という意味があり、「鞦韆」(シュウセン)と書けば「ぐっと引き絞って前へ送り出す」イメージから(ぶらんこ)と読む。この(シュウセン)の音から転じて「秋千」と書いても(ぶらんこ)と読む。