漢字と熟字訓の由来を巡る旅

漢検準1級と1級に役立つよ

33 爬虫類と両生類と甲殻類  (漢検準1級と1級に役立つよ)

 

爬虫類と両生類と甲殻類

 虫という字はもともと、まむしを象った象形文字であり、蛇などの爬虫類を表していた。昆虫などの小さな虫を表す漢字は本来「蟲」と書き、のちにこの字は省略されて「虫」という字になったので、今は「虫」の字がどちらの意味をも持っている。

爬虫類とは、ヘビ、カメ、ワニ、トカゲの仲間である。

トカゲは「蜥蜴」(セキエキ)と書くが、これはもともと「析易」と書いて「陰陽析易」の意味を持っていた。「陰陽析易」とは陰陽の離合集散による万物の変化のことで、周囲の状況によって体色を変化させる虫を「蜥蜴」で表した。「石竜」「石竜子」(とかげ)とも書くのは、爬虫類が竜の仲間だと考えられていたためで、山石の間に棲むから「石竜」なのである。またヤモリはトカゲの一種であり、常に人家の屋壁にいて害虫を食べてくれることから「家守」「守宮」(やもり)である。また漢語からは「壁虎」とも書くが、これは壁に棲みついて虫などを捕る様子が肉食獣を思わせるからである。ヤモリは虫偏の漢字を使って「蝘蜓」(エンテイ)とも書くのだが、これは「蝘」(隠れ棲む虫=トカゲ)+「蜓」(まっすぐ伸びる虫)から成る熟字で、トカゲ全般をも表現していて、字書によっては(とかげ)(やもり)どちらの読みもある。

名前も姿もヤモリと紛らわしいイモリは爬虫類ではなく両生類の動物で、「蠑螈」(エイゲン)と書く。両生類は魚類と爬虫類の中間的存在で、水のそばを離れることができないイモリ、サンショウウオ、カエルの仲間で、イモリは井戸辺に棲むことから「井守」なのである。「蠑」は本来トカゲを意味する漢字で、「螈」は(赤い虫)、合わせて腹の赤いトカゲのような虫を意味する。サンショウウオはその名からもわかるように、その昔、魚の仲間と考えられていた。「山椒魚」と書くほか、漢字一字で「鯢」の字もある。

「蛙」(かえる)という字はつくりの「圭」(ケイ)がカエルの鳴き声を表す形声文字である。カエルの子供のオタマジャクシは「蝌蚪」(カト)と書くが、「科」「斗」ともに柄杓(ひしゃく)のことで、形が柄杓に似ている虫の意味である。カエルの王様、トノサマガエルは「金線蛙」と書き、これは背中に黄色い線が走ることによる。またヒキガエルには「蟾蜍」(センジョ)の字が当てられる。「蟾」(セン)は一字で(ひきがえる)と読む漢字であるだけでなく、(つき)とも読んで、「月」を意味する。「ヒキガエルと月に何の関係が」と思うかもしれないが、これは中国の神話に由来する。

神の一人である羿は数々の偉業を成した英雄だが、天帝の怒りを買って不老不死ではなくなってしまう。そこで苦労の末、女神西王母から不老不死の薬をもらい受けたが、妻の嫦娥はこれを独りで飲んでしまう。嫦娥は月へ逃げたが、裏切りの酬いからヒキガエルになり、そのまま月で過ごすことになった。ここから「蟾宮」「銀蟾」と言えば月の別名、「蟾光」とは月光のことを指す。ヒキガエルは「蝦蟇」(ガマ)とも呼ばれ、「蝦蟇」と書くのはその音「蝦」(カ)+「蟇」(マ)からで、「蟇」は一字でも(ひきがえる)と読む。

「叚」には「からを被る」という意味があり、「蝦」という字はもともとそのような特徴を持つ(エビ)を表す漢字である。「海老」(えび)と書くことも多いが、これは背中が曲がって長いひげの生えたエビの姿を、海の老人に見たてたことによる。「蝦」の付く熟字には、「竜蝦」(いせえび)、「青蝦」(しばえび)、「草蝦」(てながえび)、「青竜蝦」あるいは「蝦蛄」で(しゃこ)、「醤蝦」(あみ)、などがあり、それぞれの特徴を表している。このうちアミとはエビに似た小さな甲殻類。「醤蝦」と書くのはその用途からで、「醤」はひしおと読んで醤油などの発酵調味料のことである。ちなみにザリガニは「蝲蛄」と書いて、カニの名をもつもののエビに近い動物で、後ずさる行動から「居ざりカニ」→ザリガニとなった。

エビと並んで甲殻類の双璧を成すのは「蟹」(かに)である。三大蟹とは言うまでもなく、毛蟹、ズワイガニ、タラバガニのことを指す。木の幹や枝から細長く伸びた若い小枝を「楚」(すわえ)というが、これがズワイの語源となって「楚蟹」(ずわいがに)と書く。タラバは冬、鱈の漁場で獲れることから「鱈場蟹」である。タラバガニはカニの名が付くものの、実はカニではなくヤドカリの仲間である。ちなみにヤドカリは「寄居虫」と書く。

甲殻類にはこの他、海の「蛆」(うじ)で「海蛆」(ふなむし)、水の「蚤」(のみ)で「水蚤」(みじんこ)、などがいる。