漢字と熟字訓の由来を巡る旅

漢検準1級と1級に役立つよ

32 海の哺乳動物  (漢検準1級と1級に役立つよ)

 

海の哺乳動物

哺乳動物の中には完全に海での生活に適応した海棲動物(海獣という)がいる。3大海獣と言えば、完全に海だけで生活をするクジラやイルカの仲間(鯨類)と、ジュゴンの仲間(カイギュウ類)、そして普段は陸上で生活をするアザラシやアシカの鰭脚類(脚が鰭状になっている)の動物たちである。今の哺乳動物の分類では、鯨類は偶蹄類(ウシ、シカ、ラクダなどの仲間)と近縁であることがわかり鯨偶蹄目という一つのグループになり、鰭脚類はイヌやネコと同じ食肉目に分類される。

クジラとイルカの違いはその大きさだけで厳密な区別はない。およそ4m以上の大きなものがクジラと呼ばれ、それ以下のものがイルカと呼ばれる。イルカは漢名から海のブタと書いて「海豚」だが、「鯆」(いるか)という漢字もある。英語でクジラ殺し“killer whale”と呼ばれる凶暴な肉食獣シャチも実はクジラの仲間である。漢字でもその凶暴さ故「鯱」(しゃち)と書くが、実はたいへん賢い哺乳動物である。

カイギュウとは「海牛」と書いてジュゴンマナティーのことを指す(「うみうし」と読むと別の動物)。牛と書くのは風貌からだが、彼らカイギュウ類は陸上で言えば、ゾウに近い動物とされている。ジュゴンは漢字で「儒艮」と書く(音からの当て字)。

アザラシは海の豹(ひょう)と書いて「海豹」(あざらし)だが、これは体に豹に似た斑紋があることに由来する。一方アシカは海の驢馬(ろば)に準えて「海驢」(あしか)である。アシカの仲間でやや小柄のオットセイは海の狗(イヌ)で「海狗」(おっとせい)と書く。オットセイの名はアイヌ語のオンネプに由来し、これが中国では「膃肭」と音訳された。そしてそのペニスが「膃肭臍」(おっとせい)と呼ばれて精力剤として使われた(臍ではないのだが)。この体の一部分を表す生薬の名が動物そのものを指すようになったのである。

鰭脚類にはアザラシ、アシカともうひとつ、巨大な体に口の上あごから大きく突き出した牙が特徴的なセイウチがいる。その巨体と大きな牙をもつ姿からセイウチは「海象」(せいうち)と書く。 

ところで、「海馬」と書くと読みの候補が複数ある。アシカやセイウチにもこの字を当てるほか、(トド)と読んだり、(タツノオトシゴ)と読んだりもする。ちなみにトドには「魹」(とど)という漢字もある。

この他、第4の海獣と呼ばれる哺乳動物にラッコがいる。ラッコはイタチの仲間なのだが、完全に海に適応し、食事はもちろん眠るときでさえ海から出ることはない(出産だけは陸上でする)。海の獺(カワウソ)で「海獺」(らっこ)と書くほか、「猟虎」「海猟」「獺虎」とも書く。「猟虎」と書くのはラッコの音訳からで、これに「海獺」が混ざって「海猟」「獺虎」の熟字が生まれた。

この他、海の付く哺乳動物の漢字には「海鼠」「海猫」「海狸」などがある。「海鼠」は鼠といっても哺乳動物ではなく、(ナマコ)と読む。この腸(はらわた)を塩漬けにしたものが「海鼠腸」(このわた)である。「海猫」はそのまま(ウミネコ)で、カモメの仲間である。泣き声が猫に似ていることからこう呼ばれるようになった。「海狸」はビーバーと読み、木材をかじり、倒して川を堰きとめ、巣を作ることで知られている。ただビーバーは川や湖に生息する動物なので海とは関係がなく、しかも齧歯目なのでネズミに近い。