漢字と熟字訓の由来を巡る旅

漢検準1級と1級に役立つよ

35 海の付く動物  (漢検準1級と1級に役立つよ)

 

海の付く生物

海の中には月もあれば星もある。「海月」と書いて(クラゲ)と読む。丸い形をして海に浮遊する様を月に見立てたのだろうが(ポルトガル語で“海の月”ということが由来とも)、漢名からは「水母」と書く。クラゲには目がないので常に多くのエビを従え、エビを目のかわりにしていると考えられていた。子を従えた母のようなので(そんなわけないが)、「水」の「母」と呼ぶのだそうだ。

一方「海星」はその形の通り、(ヒトデ)である(英語でも“sea star”あるいは“starfish”)。「人手」あるいは「海盤車」とも書き、棘皮動物というウニやナマコの仲間である。「人手」はその形を人の5本指に喩えたものだが、「海盤車」とはもともとタコノマクラという平たい円盤状のウニの仲間を指す語であった。一方「海燕」と書いて(たこのまくら)と読むのだが、「海燕」の方は燕が翼を広げて飛ぶ姿からヒトデを表していたと考えられる。中国からの書物の記載が不明確だったために名称が混乱し、両者は逆になってしまったようだ。

見た目通りの漢字と言えば、ウニは毬(いが)に包まれた栗そのものの姿をしており「海栗」(うに)と書く。漢名では「海胆」と書き、これは中身が肝(きも)に似ているからだと言われている。普段お寿司屋さんで食するウニは、そのウニの卵巣である。そしてそれを塩付けした料理は同じウニでも「雲丹」と書く。

「鷂」(はいたか)とはタカを代表する鳥で、両翼を広げて大空を優美に滑空する。一方、海で翼を広げたような泳ぎ方をする魚といえばエイである。そこでエイは「海鷂魚」と書く。エイは骨格が軟骨で形成される原始的な魚類で、鮫に近縁である。平たい姿は深い海底での生活に適応していったものと考えられている。魚偏では「鱏」と書いて、「覃」には奥深いという意味が込められている。

「帆立貝」(ほたてがい)はその形から海の扇に喩えられ「海扇」(ほたてがい)とも書くが、この貝の文様が車の溝に似ているために「車渠」(ほたてがい)とも書く(車輪の溝のことを「渠」という)。また「月日貝」(ツキヒガイ)は、「貝の表が夜のごとく赤紫に暗く、裏が白昼のごとく真っ白い」ことからついた名前で、円形で光沢のある殻をもっているため「海鏡」(つきひがい)とも書く。

ホヤは体内に空洞があるために「海の鞘(さや)」と表現され、「海鞘」(ほや)と書く。ただし見た目は鞘というよりパイナップルに似ていて、「海のパイナップル」の異名をもつ。ちょっと不気味な姿をした生物で、味の方も病み付きになる人と二度とごめんだと言う人の二手に分かれるらしい。「老海鼠」(ほや)とも書くのだが、これは「海鼠(ナマコ)が老いるとホヤになる」と考えられていたからである。ナマコとは何の関係もなく、ホヤは尾索動物といって、進化の上では哺乳類、爬虫類、魚類などの脊索動物に近い動物である。

そして最後は生物ではないが、海をつかさどる神を「海神」(わたつみ)と言う。「綿津見」とも当てるが、(わた)は海、(つ)は格助詞、(み)が神のことである。ちなみに山の神は「山神」(やまつみ)という。