漢字と熟字訓の由来を巡る旅

漢検準1級と1級に役立つよ

4 キャベツと春の七種  (漢検準1級と1級に役立つよ)


キャベツと十字架(アブラナ科

白菜とキャベツとレタスとカリフラワーとブロッコリー、この中で仲間のちがうのはどれか。正解はレタスで、これだけがキク科で他の4種はアブラナ科の植物だ。そもそもカリフラワーとブロッコリーはキャベツの変種なので、もとをたどれば同じ植物である。「甘藍」(カンラン)あるいは「玉菜」(たまな)と書いて(キャベツ)、「花椰菜」(ハナヤサイ)と書いて(カリフラワー)、「木立花椰菜」で(ブロッコリー)、「玉萵苣」(タマチシャ)と書いて(レタス)と読む。「萵苣」(チシャ)とは本来レタスの和名なのだが、レタスの仲間は非常に多く、結球性の(玉状になる)ものだけが今日レタスと呼ばれるようになった。丸くならないものにはサラダ菜やサニーレタスなどがある。

アブラナ科の基本種である「油菜」(あぶらな)とは、春になると畑や川べりで一斉に黄色い花を咲かせる「菜の花」のことである。漢字一字で「薹」(あぶらな)と書くこともできる。その種子は菜種(なたね)と呼ばれ、油の含有量が多いため、油(菜種油)を採るために栽培されてきた。アブラナ科の花はどれもみな花弁が4枚で、花の姿が十字状であるためキリスト教の十字架を連想させ、十字架科とも呼ばれている。キリスト教圏では深い意味を持つ花なのである。

アブラナ科には、他にも水菜(京菜)、野沢菜、小松菜、「青梗菜」(チンゲンサイ)や「芥子菜」(カラシナ)、「搾菜」(ザーサイ)、高菜、などの菜っ葉類がある。野沢菜、小松菜は地名から、青梗菜は茎が青い(緑色)という意味である。搾菜、高菜は芥子菜の変種であって、搾菜の名は汁を搾り出してから食用にすることから、高菜は高地で栽培することからの命名である。高菜は芥子菜に比べて葉が大きいことから「大芥菜」と書けば(たかな)と読む。香辛料の「辛子(芥子)」(からし)は芥子菜の種子からつくられる。香辛料では「山葵」(わさび)もアブラナ科に属する。水のきれいな山でしか育たず、その葉の形が葵に似るから「山葵」と書く。

春の七種(ななくさ)は、「せり、なずな、ごぎょう、はこ(く)べら、ほとけのざ、すずな、すずしろ、これぞ七種」と書かれた『河海抄』なる書物に由来するが、秋の「七草」に対して、「七種」の字を使うのが正しい。1月7日、人日の節句の朝にこの野菜の入った粥を食べると邪気を祓い、万病を除くといわれている。この中のナズナスズナスズシロアブラナ科の植物である。

ナズナは「薺」と書いていわゆるペンペン草のことである。花の下に付いている果実が、三味線の撥(ばち)に似ているため、三味線のペンペンという音を思い描いてペンペン草と呼ばれるようになった。 

スズナは「鈴菜」あるいは「菘」とも書いて「蕪」「蕪菁」(かぶ)のことである。スズシロとは「清白」「蘿蔔」と書いて大根のことである。スズシロスズナに代わるものと言う意味で「スズ代」と呼ばれ、色が白いことから「清白」の字が当てられたと言われている。「蘿蔔」(ラフク)と書くのは西欧系の言語の音訳からだと考えられている。「蔔」の字は一字でも(だいこん)と読む。ちなみに「胡」の国(ペルシャのこと)の「蘿蔔」で「胡蘿蔔」(にんじん)、「山蘿蔔」と書けば(まつむしそう)と読む。マツムシソウとは、秋に淡青紫色の美しい花を咲かせるマツムシソウ科の植物で、葉が「蘿蔔」の葉に似ていることからこう書かれる。

大根をまだ双葉の頃に食すると「穎割」(かいわれ)と呼ぶ。双葉の形が、貝が開いたように見えることから「貝割れ」なのだが、「穎」と言う字は「禾(いね)+頃(かたむく)」つまり稲の穂先を表している。双葉の形を稲の穂先に準えて「穎割」と書く。

ちなみに春の七種のうち、御形(ごぎょう)はキク科のハハコグサで、ホトケノザは現在の「仏の座」ではなく「田平子」(たびらこ)のことである。タビラコもキク科の植物で、葉が田の水面に広がることから「田平子」と書く。またハコベラは「繁縷」と書いて、「茎蔓甚だ繁く、中に一縷(細い筋)あり」つまり、茎から枝が繁く分かれ出て、茎の中には一本の細長い糸状のものが入っている特徴を表したものである。