漢字と熟字訓の由来を巡る旅

漢検準1級と1級に役立つよ

20 ヒマワリとイソギンチャク  (漢検準1級と1級に役立つよ)

ヒマワリとイソギンチャク

アオイの仲間でもないのに、「葵」の字を使う植物がある。ヒマワリはキク科の一年草で、アオイとは何の関係もないのだが、漢名から「向日葵」(ひまわり)と書く。日の方向に合わせて花が回ると言われたことからヒマワリと呼ばれるようになったのだが、咲いた花が日の動きに合わせて動くことはない。しかし、花が蕾の頃までは先端を太陽光の来る方向へゆっくりと向きを変える習性があって(向日性)、やがて花が開くと(=成長が止まると)この向日性も失われる。 

「癸」という字は、もともと太陽で方位を測る器具の象形文字で、「揆る」(はかる)という意味がある。これに草冠のついた「葵」は、太陽に向かって回る植物のことを指していた。これが次第に向日性をもつアオイを限定して指すようになっていったのである。「向日葵」も当初はフユアオイを指す語だったのが、次第にヒマワリにとって替わられた。アオイも花が咲く前には向日性があり、名前の由来も「仰ぐ日」から(あふひ)→アオイになったのだと言われている。

九州や沖縄地方の海岸に自生する「蒲葵」(びろう)というヤシ科の常緑樹がある。「蒲葵」と書くのは漢名からで、この熟字からホキとも呼ばれる。古来非常に神聖視されてきた植物で、この葉を用いて作られた「蒲葵扇」は神事に用いられていた。「蒲」(がま)とは水辺に生える多年草で、その葉は線形で柔らかく、長いものでは2mを超える。水辺に生えることから「浦」に草冠で「蒲」の字となった。「蒲葵」はこの葉に準えたものだが、「葵」が使われるのは「蒲葵」で作られた扇を日にかざすと影ができる様を、日を向いて日差しを遮る「葵」に結び付けたのだろうと言われる。ビロウと呼ぶのは同じくヤシ科の「檳榔」(ビンロウ)という植物と混同したものである。「賓郎」は「賓」(まろうど)+「郎」(良い男)で、大切なお客のことである。これに木編が付いて、お客様をもてなす実のなる木という意味で「檳榔」と書いた。

「落葵」と書くと(つるむらさき)と読む。蔓状に延びる茎が紫色をしているから(つるむらさき)だが、「落葵」と書くのは、葉が葵に似て、房状の花が落ちるように咲くことからだと考えられる。葉、茎、花とも食用にされ、別名インデアンホウレンソウと言われるほど栄養価が高い。

イヌホオズキはナス科の植物で、ホオズキやナスのような実をつけるが役に立たないことから犬という蔑称を冠して「犬酸漿」(いぬほおずき)と呼ばれた。バカナスという異名もある。しかし漢名では「竜」という尊称がついて、葉が葵に似ることから「竜葵」と書く。

 ミズアオイはアオイの名が付くが、アオイ科の植物ではない(ミズアオイ科)。「水葵」(みずあおい)の名は、艶のあるハート型の葉がカンアオイの葉に似て、水田などの湿地に生えることに由来する。古くは食用にしていたことから「水葱」(なぎ)とも呼ばれ、漢名から「雨久花」(みずあおい)の表記がある。

 コナギはミズアオイを一回り小さくしたような植物で「小水葱」(こなぎ)である。花の姿を鴨の舌に準えて「鴨舌草」(こなぎ)とも書く。

イソギンチャクは海中に棲む巾着のような姿をした動物であることから「磯巾着」なのだが、植物でもないのに「菟葵」と書く(由来は不明)。中国で「菟葵」はもともとアサザという植物を指しているのだが、アサザはその花びらに鋸歯状に襞が付いている。その花が風に揺られる姿がイソギンチャクをうかがわせるのかもしれない。中国語でイソギンチャクは「海葵」と書く。