漢字と熟字訓の由来を巡る旅

漢検準1級と1級に役立つよ

15 小さな鳥  (漢検準1級と1級に役立つよ)

 


小さな鳥  (漢検準1級と1級に役立つよ)

世界一小さな鳥がハチドリであることはよく知られているが(北米~南米に生息)、日本で最も小さい鳥はキクイタダキという体長10cmほどの小鳥である。頭頂部に黄、橙、赤などの美しい冠羽をもっているため「菊を戴く」という意味でこの名がついた。「菊戴」の他、「鶎」(きくいただき)の字もある。その小ささゆえ、「蟷螂」(かまきり)に捕食されることもあるという。

日本で二番目に小さい鳥は、「鷦鷯」と書く(みそさざい)で、「三十三才」とも書くが、これは音からの当て字である。ミソサザイは世界に広く分布する鳥で、各地で民間伝承に登場する。小さいながらも賢い鳥ということで“鳥の王”と賞賛される。巣作りが巧みであることから「巧婦鳥」(みそさざい)とも書き、巣作りは外装をオスが、その巣を気に入るとメスが産座となる内装に取り掛かるそうである。

小さい方から三番目にあがるのは「目白」(めじろ)の仲間で、スズメよりやや小さく(体長12cmほど)、目の周りに白い縁取りがある。漢名でもこの特徴から「繍眼児」(めじろ)である。

これに対して「頬白」(ほおじろ)は頬や喉、また眉の辺りに太く白が目立つ鳥である。漢名では眉部の白さの方に注目されたのか、眉を書く鳥で「書眉鳥」(ほおじろ)である。ホオジロ科には非常に多くの種が属するが、いずれもスズメ大の鳴禽類である。クロジは「黒鵐」と書き、黒っぽいホオジロの仲間である(オスだけが黒い)。「鵐」の字は(しとど)と読んで、ホオジロの仲間を指す漢字である。「巫鳥」と書いても(しとど)と読む。アオジは腹部が黄色く、頭部が緑褐色の小さな鳥で「蒿雀」(あおじ)と書く。これは「蒿」(よもぎ)の色をした雀の意味で、「青鵐」(あおじ)とも書く。古来、日本では緑のことを(あお)と呼ぶ習慣があり、ここでのアオも緑のことを指している。若葉が生い茂る様子を「青々とした」と表現し、信号の緑色も青と呼ぶ。「緑啄木鳥」「緑鳩」と書いて(アオゲラ)、(アオバト)と読むのもこのためである。

春になると囀り始めるウグイスは日本中に生息し、日本人には最も親しまれてきた鳴禽で、駒鳥(こまどり)、大瑠璃(おおるり)とともに日本三鳴鳥とされる。「鶯」のほか、「春告鳥」(うぐいす)と書くのはよく知られている。またウグイスの仲間に、葦の茎を割って中の虫を食べることから「葦切」「葦雀」(ヨシキリ)という鳥がいる。この鳥は鳴き声が「ギョウギョウシ」と聞こえることから「行行子」と書いて(よしきり)と読む(かなりな難読)。

何ら戦うすべを持たない小鳥は一般に警戒心がたいへん強いのだが、燕(つばめ)だけは人を恐れず、人が暮らす環境にどっぷりと入り込んで生活をする。春の訪れとともにやってきて、民家の軒下に巣をつくるのは天敵のカラスなどから身を守るためだと考えられている。玄(くろ)い鳥であることから「玄鳥」、また漢名からは「乙鳥」とも書く。「乙」という字はもともとツバメの飛跡を描いた象形文字なのである。