漢字と熟字訓の由来を巡る旅

漢検準1級と1級に役立つよ

16 黒い鳥と白い鳥  (漢検準1級と1級に役立つよ)

黒い鳥と白い鳥

カラスは全身真っ黒な鳥で、目の部分の区別が付かないことから鳥という字の目を示す一画を抜いて「烏」と書く。「烏は生まれると60日間母が哺育し、成長すると逆に60日母を哺育する。まさに慈孝というべきである。」(『本草』)と言われて「慈烏」「慈鳥」とも書く。カラスにはもう一つ「鴉」という漢字があるが、これは左側の「牙」がカラスの鳴き声を表している。他にも「鳩」「鴨」「鵞」「鵑」などの漢字も鳴き声から作られている。

烏という字は黒を表現するのによく用いられる。「烏龍茶」(ウーロンチャ)は茶葉の色が黒く、龍の爪のように曲がって仕上がることから「烏龍」と呼ばれ、「烏骨鶏」(ウコッケイ)はこの鳥の骨が黒っぽいことに因んでいる。

「黒檀」(こくたん)はカキノキ科の熱帯産の常緑高木で、材質は緻密で黒いことから黒木とも呼ばれる。非常に硬い用材で加工が困難だが、耐久性に優れるために家具などに用いられる。烏の字を使って「烏木」(こくたん)とも書く。また「黒竹」(くろちく)は竹の一種で外皮が黒紫色をしていることから「烏竹」(くろちく)と書く。

おせち料理に欠かせない「黒豆」にも「烏豆」の表記が使われる。同じくおせち料理によく利用されるクワイオモダカ科の水生植物で、芋が黒いことから「烏芋」(くわい)と書く。根に多くの子根のできる様子が、「1年で根に十二子ができ慈悲深い姑(おんな)が諸子を養育するのに似る」(『和漢三才図絵』)と言われたことから「慈姑」(くわい)とも書く。これに山が付くと「山慈姑」(あまな)と読んで、チューリップによく似たユリ科の植物である。根を食用にすることからクワイになぞらえたものである。

「烏樟」(くろもじ)はクスノキ(樟)科の落葉低木で、黄緑の小枝に黒い地衣類が付着して、それが文字を書いたかのように見えるため「黒文字」と呼ばれるようになった。「鉤樟」(くろもじ)とも書くが、この木に棘(鉤)はないので誤用である。ちなみにクスノキ科には「白文字」「青文字」という名の樹木もある。

一方、白い鳥には白鳥や鶴(つる)、鸛(こうのとり)、鴎(かもめ)などいくつか候補が挙がるのだが、白鷺はその優美な姿もあって、白い鳥の代表である。古くから数々の地名や建物、ものの名前に用いられてきた。ただし、シラサギという名の鳥がいるわけではなく、白鷺とは数種類の白いサギの総称である。カラスと合わせて「烏鷺」と言えば黒と白のこと、転じて囲碁の別称として使われる。

サギの仲間のゴイサギには、次のような謂れがある。醍醐天皇神泉苑にて飲宴されたとき、鷺を見つけてこれを捕らえるよう命じられた。命を受けた人が近づいたところ、鷺が逃げようとした。そのとき、この人が「宣旨であるぞ」と叱ると鷺は伏してその場に留まった。そこでこれを捕らえて献上したところ、帝はたいへん感心され、この鷺に五位の位を賜わった。それで「五位鷺」(ごいさぎ)と呼ばれるようになったといわれている(『平家物語』)。

白い鳥ではないが、「白」を使った鳥の名がある。ヒヨドリは灰色をしたハト位の大きさをした留鳥で、昔は「稗」を主食としていたことからヒエドリが転じて、ヒヨドリ(鵯)となった。頭の羽毛が立って白く見えることから「白頭鳥」(ひよどり)とも書く。またムクドリ(椋鳥)も頭に白い毛が混ざっていることから「白頭翁」(ハクトウオウ)の異名を持つ。