漢字と熟字訓の由来を巡る旅

漢検準1級と1級に役立つよ

9 イモ  (漢検準1級と1級に役立つよ)




イモ (ヤマノイモ科とサトイモ科)

そもそも芋とは、植物の根や地下茎が肥大し、デンプンなどの養分を蓄えたもの全般を指していて、ナス科のジャガイモ、ヒルガオ科のサツマイモなどさまざまな科の植物に芋ができる。

山芋(やまいも、やまのいも)はヤマノイモ科のイモで、山野に自生することから「自然薯」(じねんじょ)の名を持つ。「野山薬」(やまのいも)とも書くのは、古くから「虚弱体質を改善し、胃腸を丈夫にし、暑さ寒さに耐え、目や耳をよくし、長寿を保つ」と滋養強壮の薬として用いられてきたからである。「薯蕷」と書いてこれも(やまのいも)と読み、これをすりおろしたものは、同じ漢字を使って「薯蕷」(とろろ)と読む。とろろは長芋(ナガイモ)からも作られるが、これもヤマノイモ科のイモである。ナガイモの品種にはイチョウイモ、ツクネイモなどがあり、イチョウイモは扇形(イチョウ形)をしていることから「銀杏芋」(いちょういも)、ツクネイモは芋の形が仏様の掌を髣髴させることから「仏掌薯」(つくねいも)と書く。これらのイモには葉の付け根に芽が生え、これを「零余子」(むかご)と言って食用にされる。「余って零れた子」の意味である。 

ヤマノイモ科にはこの他、ヤマイモに形のよく似た「野老」(ところ)と呼ばれる芋がある。別名 鬼野老(おにどころ)ともいい、有毒で苦味が強いため通常食用にはならないが、ヤマノイモのあるところには必ずと言っていいほどトコロが育っているので、よく誤食されてきた。古くから正月の飾りに用いられてきたが、食料のない時代には煮物にされたこともあったらしい。根茎から生える細い根が老人のひげのように見えることから、背中が曲がってひげの生えた海の老人「海老」(えび)に対して、野の老人「野老」の字が当てられた。

ナス科にも根茎が野老に似ている「走野老」(はしりどころ)という植物がある。これもまた有毒で、食べると狂乱して走り回ることからこの名がついた。ハシリドコロは漢名から「虎茄」とも書くが、食べると暴れまわる茄子科の植物の意味である。一方、ユリ科にも根茎が野老に似た植物がある。こちらは毒もなく甘みがあるので、「甘野老」(あまどころ)と呼ばれて食用になる。

里芋はサトイモ科の植物で、里で栽培されることから山芋に対して里芋と呼ばれた。山芋は根だが、里芋は土に潜った茎(塊茎)である(ジャガイモも茎)。また里芋は葉の柄の部分が「芋茎」(ずいき)と呼ばれて食用となる。里芋の一種にヤツガシラと呼ばれる品種がある。親芋を中心に小芋がたくさんできることから、「八頭」なのだが、漢名から「九面芋」と書いても(やつがしら)と読む。同じヤツガシラでも「載勝」と書くと、頭に大きな冠羽をもつ鳥の名前で、髪飾り(勝)を戴いた鳥と表現している。

芋と言っても「蒟蒻芋」(こんにゃくいも)はそのまま食べることはなく、芋に含まれるコンニャクマンナンという成分にアルカリを混ぜることで他の芋にはない独特の食感が得られる。カロリーがほとんどないことからダイエット食品として人気である。「蒟蒻芋」もサトイモ科の植物である。ちなみに「蒟醤」と書くと(きんま)と読んで、コショウ科の植物である。「句」には曲がるという意味が含まれ、「蒟」は曲がって立つ植物を指す。この葉に蜜と塩を混ぜて「醤」(味噌のようなもの)として食べたことから「蒟醤」と書いた。

このほか、マメ科にも「土芋」「塊芋」と書いて(ほど)と読む芋がある。こちらは栄養価が高いのでダイエットには不向きだが、健康によいと“アピオス”の名で人気が高い。