漢字と熟字訓の由来を巡る旅

漢検準1級と1級に役立つよ

10  キンポウゲとクマノミ  (漢検準1級と1級に役立つよ)




キンポウゲとクマノミ (キンポウゲ科

キンポウゲは春になるとあぜ道や土手などに咲く黄色い5弁の花である。花弁に光沢があるため、光を浴びると反射して輝いて見える。まさに黄金色と呼ぶのにふさわしい花で、「金鳳花」と書く(鳳は鳳凰のような高貴さを表す)。キンポウゲは、根生葉(根元から生えている葉)が、馬の蹄(足型)に似ていることから、正式名称はウマノアシガタと言う(厳密にはキンポウゲとはウマノアシガタのうち八重咲きになった品種のことである)。漢名では「毛茛」(モウコン)と書くため、これで(きんぽうげ)または(うまのあしがた)とも読む。「茛」とは本来草烏頭(ソウウズ)の苗のことで、この草に形や毒性が似ている上に、葉や茎に細毛のあることから「毛茛」と呼ばれたのである。

キンポウゲによく似た「福寿草」(ふくじゅそう)も黄金色で、新春一番に咲くことから、縁起の良い花としてこの名がある。福寿とは幸福と長寿のことである。別名 元日草(がんじつそう)とも呼ばれ、まだ花の少ない元日(旧暦)にも花が咲いていたため、正月の飾りとして親しまれてきた。「金盞花」(きんせんか)に似ていることから「側金盞花」とも書くが、キンポウゲの仲間である。この他、「満作車」あるいは「献歳菊」「富士菊」「長寿菊」と書いて、いずれも(ふくじゅそう)と読む。どれをとってもおめでたい花であることを表現しているが、「菊」の字が使われるのは、花弁が多いことがキクの花のようだからである。

キンポウゲ科の花は美しく、多くは観賞用に栽培されるが、一方で強い毒をもつものも多く、金鳳花や福寿草も例外ではない。中でもとりわけ有名なのがトリカブトで、日本に自生する毒性植物の中では最も強い毒をもつ。花の形が古典芸能「舞楽」でかぶる「鳥兜」(とりかぶと)に似ているためにこの名がついた。中国では根の形を烏の頭に見立てて、その根を「烏頭」(ウズ)と呼び、またそのわきに付く子根を「附子」(ブシ)と言った。根は漢方薬として使われるため、「烏頭」「附子」はそのまま漢方薬の名前となり、ここからトリカブトは「草烏頭」とも書く。「附子」を誤って飲むと、中毒を起こして神経が麻痺して無表情になる、あるいは強烈に苦いため苦悶の表情になる。この醜い表情から女性への悪口「醜女」(ぶす)が生まれた。葉が菊に似ていることから(かぶとぎく)の別称もあり、この場合は「兜菊」あるいは「双鸞菊」と書く。

キンポウゲの仲間には一輪草、二輪草、三輪草という花がある。それぞれ一つの茎に一輪の花、二輪の花、三輪の花を付けることからこう呼ばれる。この中で、ニリンソウの若葉はフクベラとして食用にされるのだが、葉の形がトリカブトに似ているために、よく誤食されて中毒を起こしてきた。花の形はトリカブトとは全く似ていないのだが、花の咲く前に葉が採取されるためにそういう事故がおこってしまう。漢名からは「双瓶梅」(にりんそう)と書いて、梅のような花が二つずつ付くことを表している。

園芸用に人気のアネモネは一輪草の仲間で地中海地方原産の花である。赤、白、紫、藍など華やかで美しい色の花だが、実はアネモネには花弁がなく、花弁に見えるのはすべて萼である。ちなみに英語で「莵葵」(いそぎんちゃく)を“sea anemone”(海のアネモネ)といい、イソギンチャクに共生するクマノミは“anemone fish”(アネモネ魚)である。和名でアネモネは「牡丹一華」(ぼたんいちげ)と言い、このままアネモネとも読む。「一華」とは一本に一つだけ花を咲かせることで、一輪草の特徴を表している。アネモネは牡丹によく似た花だが、枝分かれして多数の花を咲かせる牡丹に対してこう呼ばれたのである(牡丹ももとはキンポウゲ科に入れられていた)。また「紅花翁草」(べにばなおきなぐさ)という異名も持つ。

 「翁草」(おきなぐさ)もキンポウゲ科の植物で、全体が白毛に覆われ、春にアネモネに似た紅紫の花を咲かせる。花が散ったあと長いひげ状の果実をつけるのだが、これが老人の白髪のように見えることからオキナグサの名となった。漢名からは「白頭翁」(おきなぐさ)と書く。