漢字と熟字訓の由来を巡る旅

漢検準1級と1級に役立つよ

47 3月の誕生石と藍  (漢検準1級と1級に役立つよ)

 

3月の誕生石と藍 (タデ科

3月の誕生石はアクアマリンと「珊瑚」(さんご)である。

アクアマリンは海の水という意味で、石はその名の通り海の色のような透き通った水色をしている。ただしアクアマリンを色の名称として用いると青と緑の中間色でかなり濃い色である。和名は「藍玉」と書いて(あいだま)と読む。

もともと「藍玉」とは「藍」の葉を発酵、熟成させた染料である「蒅」(すくも)を運搬しやすいように固形化したものである。「藍」(あい)とは「藍蓼」(あいたで)、「蓼藍」(たであい)などとも呼ばれるタデ科一年草で、花や葉が青いわけではないが、葉茎が傷つくと酸化されてインジゴという青い色素に変化する。この現象から、「青は藍より出でて藍より青し」という故事が生まれた。教えを受けた者が、教えた者よりすぐれていることの喩えに使われる。この青い染料をとるために古くから重用されてきた。

「蓼」(タデ)は特有の香りと辛さを持つ植物で、古くから香辛料や刺身の妻に用いられてきた。「蓼食う虫も好き好き」という諺は、「他にも草があるのに蓼のような辛い草を食べる物好きな虫もいる」ということから「人の好みはさまざまだ」の意味に使われる。単にタデという場合はヤナギタデのことを指す。葉が柳に似ているためにヤナギタデで、水際に生えるためミズタデとも呼ばれる。「薔」と書けば一字で(みずたで)と読む。「薔薇」(ばら)に使われる漢字である(この話は別項で)。

日本人に最も馴染みが深いタデ科の植物といえば「蕎麦」(そば)だろう。(そば)の語源は実が三角状になっていることから、角張ったことを意味する「稜(そば)」に由来する。「蕎」の字はトウダイグサの一種を指していて、ソバと同じく実に「稜(かど)」のあることから用いられるようになったらしい。もともと「そば麦」(そばむぎ)と呼ばれていたのが省略されて、「蕎麦」(そば)になった。

タデ科にはギシギシというかわった名前の植物がある。鈴のように並んだ実を振るとギシギシと音がすることに由来する。根には薬効があり、その形が羊の蹄のように見えることから羊蹄根と呼ばれている。ここから「羊蹄」と書いて(ぎしぎし)と読むようになった。またイタドリというタデ科の植物にも薬効があり、こちらは「痛取り」を意味して、若葉をよく揉んで傷にすり込むと痛みを和らげる効果がある。茎はまるで竹のように節があって杖のように硬く、また若い芽の模様が虎に似ていることから「虎杖」(いたどり)と書く。

ミズヒキという植物は、花の色がみごとに紅白に分かれていることから「水引」の名がついたのだが、タデ科の植物なので花弁はなく、花に見えているのは萼である。花茎が針金のように細いことから、「金線草」(みずひき)と書く。

マタタビはネコ科の動物を酔わせる植物としてよく知られ、「木天蓼」と書くが、蓼の仲間ではない(マタタビ科)。夏に梅のような白い花を咲かせることから別名 夏梅(なつうめ)とも呼ばれ、若い間は辛いが熟すとおいしい実をつける。人が食べる分には全く無害で、俗説ではあるが「疲れた旅人がこれを食して再び旅を続けられた」との謂れからマタタビの名がついたという。天蓼とはオオケタデのことで、蓼のように実が辛い。草本の「天蓼」とは違って、木本なので「木天蓼」(またたび)となった。ちなみにキウイフルーツマタタビの仲間で鬼木天蓼(おにまたたび)の実である。