漢字と熟字訓の由来を巡る旅

漢検準1級と1級に役立つよ

46 2月の誕生石と紫  (漢検準1級と1級に役立つよ)

 

2月の誕生石とムラサキ

2月の誕生石アメジストは紫色をした水晶である。水晶(クリスタル)とは二酸化珪素が結晶化してできた石英(クウォーツ)という鉱物のうち、特に結晶度の高いものを指す。水晶は古くから「玻璃」(はり)と呼ばれて珍重された。

石英のうち非常に細かい結晶が緻密に固まっているものは「玉髄」(ギョクズイ)と呼ばれ、その中でも美しいものは宝石として扱われる。赤い玉髄はカーネリアン(紅玉髄)という宝石で、欧米では7月の誕生石の一つである。緑の玉髄はクリソプレーズ(緑玉髄)で、水晶類の中では最も価値が高い。また濃緑色に赤い斑点の混じった玉髄をブラッドストーンと呼び、イギリスなどでは3月の誕生石のひとつである。“bloodstone”は漢字で「血石」である。また玉髄に蛋白石や石英が層状に重なった鉱物が「瑪瑙」(メノウ)である。「瑪瑙」の名は石の外観が「馬の脳」に似ていることから来ている。このメノウのうち縞目が紅色と白色に彩られているものがサードニクスという8月の誕生石である。これは「紅縞瑪瑙」と書く。

欧米では4月の誕生石にダイヤモンドと並んで水晶が挙げられるが、様々な色のある水晶の中でも紫色が特に美しいため、紫水晶アメジストと呼ばれて別格の評価をされた。

ここでは紫に纏わる熟字訓をあげてみる。

「紫」(むらさき)というのはもともと白い花を咲かせる植物の名で、5月の中旬5弁の小さな花を咲かせる。花は白いのだが、根は紫色で古くから染料として使われてきた。古来、紫は高貴な色とされ、その染料となるムサラキはたいへん貴重で、また薬草でもあったために明治の中頃まではよく栽培されていた。万葉集にもその名が載るほど親しまれた植物なのだが、今日では絶滅危惧種に指定されている。

オシロイバナは、固くて黒い種を砕くと白い粉が出てくることから「白粉花」(おしろいばな)と呼ばれた。花の色は赤、黄、白などで、夕方咲くことから「夕化粧」の異名を持ち、英名も“four-o’clock”(4時)である。漢名からは「紫の茉莉」と書いて「紫茉莉」(おしろいばな)と読む。「茉莉」とは「茉莉花」(まつりか)のことで、芳香の強い花を咲かせるジャスミンの一種で、これを乾燥させてお茶に入れると、ジャスミン茶となる。「茉莉花」は梵語マリカー”を音訳したものだが、これをマツリカと読み違えて和名となった。

「花蘇芳」(はなずおう)はマメ科の植物で、同じくマメ科の「蘇芳」(すおう)の樹木から採れる染料「蘇芳染」の色をした花を咲かせることから名づけられた。紫色をした小さな花を幹や枝から直接群生させる(幹生花)特異な植物である。ハナズオウはスオウとともにジャケツイバラの仲間で、漢名からは「紫荊」(はなずおう)と書く。ジャケツイバラとは幹や枝に鋭い棘を持ち、蛇が絡み合うような枝ぶりをした植物で、漢字で書くと「蛇結茨」である。ハナズオウには荊のような棘はないのだが、紫の花を付ける荊の樹を意味して「紫荊」と書かれた。

「紫陽花」(あじさい)はユキノシタ科の植物で、梅雨時期に小さな紫色の花が鞠状に集まる姿が特徴的である。アジサイの名も藍色が集まったものという「集」(あず)+「真藍」(さい)が語源とされる。花のように見えるのは、実は花ではなく萼である。「紫陽花」と書くのは白楽天の詩からの引用なのだが、本来他の植物を指していたのを誤用したようである。「八仙花」とも書くが、これは蕊が8つある花の意味である。ちなみにユキノシタ科の基準種であるユキノシタは葉が虎の耳に似ていることから「虎耳草」(ゆきのした)と書く。

また「紫雲英」と書いて(げんげ)と読む。ゲンゲとは「蓮華草」(れんげそう)のことで、花が蓮華に似ていることからのネーミングである。ゲンゲもレンゲソウが訛ったものだと言われている。「紫雲英」と書くのは漢名からだが、この花が一面に咲いた情景を紫色の雲がたなびく様に見立てたのである。