漢字と熟字訓の由来を巡る旅

漢検準1級と1級に役立つよ

45 1月の誕生石とザクロ  (漢検準1級と1級に役立つよ)

 

1月の誕生石とザクロ

誕生石とは1月から12月までのそれぞれの月に因んだ宝石のことで、自分の生まれた月の誕生石を身に着けると幸運が訪れると言われている。その起源は聖書にあるとされるが、月ごとに誕生石が定められたのは意外と新しく、20世紀に入ってからのことで、それを決めたのはアメリカの宝石商組合なのである。その後、各国で改訂されていき、誕生石の種類は国によって若干の違いがある。

1月の誕生石は世界共通でガーネットである。ガーネットとはラテン語でザクロの実を意味し、原石を見ても、磨かれた石を見てもまさにザクロの実によく似ている。これを漢字では「石榴石」「柘榴石」(ざくろいし)と書く。ザクロは今のイランのザクロス山脈あたりが原産とされ、ザクロの名はこの山脈名が由来だとされる(諸説あり)。実が熟すと自然にはじけ、中には宝石のような赤い粒の実がぎっしり満ちている。ここから子宝の木とも呼ばれるが、この実が瘤のように見えた(樹肌も瘤状になる)。その昔、ペルシャ北部に安石という国があり、安石からきた瘤のような実をもつ木ということから安石榴と呼ばれ、やがて安が省略されて今の石榴という字になった。柘榴と書くのは、樹木を表すように石に木偏がついただけである。ザクロはその花の色もみごとな赤で、緑の中にザクロの赤い花が一輪咲く様を、宋の詩人王安石は「万緑叢中紅一点」と詠んだ。ここから「紅一点」という言葉が生まれた。紅一点の紅とはもともと石榴の花のことだったのである。

ちなみに「海石榴」と書けば(つばき)と読む。「海のザクロ」ではなく、「海外(朝鮮)から来た石榴のような花」という意味である。「椿」あるいは「山茶」と書いても(つばき)と読む。「山茶」(つばき)と紛らわしいのが「山茶花」(さざんか)である。サザンカはツバキと同じツバキ属の植物で、たいへん似ているので花のことをよく知らないと見分けがつかない。漢名でツバキは「山茶花」と書くので、この名が日本に入ったときに錯誤されたのだ。中国から「山茶花」の名が入ったのちさらに、「茶山花」と誤って表記され、これを(ささんか)と読んだことから(さざんか)の名となったと言われる。言葉が伝わるときには誤用、誤解がおこるものだというよい例である。「茶」の字が付くことからもわかるように、ツバキはお茶の仲間である。中国ではお茶として飲用に用いるものを「茶」、花として鑑賞するものを「茶花」と呼んだ。さざんかは「茶梅」とも書く。

もう一つ「山石榴」と書く植物もある。(のぼたん)と読んで、「野牡丹」のことである。ノボタンとは言うものの、「牡丹」(ぼたん)とは全く別種の植物で花の姿も似てないが、名前を美しいボタンに肖った。「山石榴」と書くように、ザクロに近い種である。ついでに「蕃石榴」と書いて(グァバ)と読み、「蕃」(海外からの)石榴のような実を意味する。