漢字と熟字訓の由来を巡る旅

漢検準1級と1級に役立つよ

40 パパイヤとマンゴー  (漢検準1級と1級に役立つよ)

 

パパイヤとマンゴー(外来の果物)

果物と野菜の違いは何か。行政上の分類では、一年性作物などの草本類が野菜で、永年性作物の木本類が果物とされる。つまり種をまいたら1年で花を咲かせ、収穫したらそのあと枯れる草本類が「野菜」で、何年もかけて成長した樹木に生る実が果物なのだ。この分類ではメロンやスイカ、イチゴまでもが野菜になる。一般的な感覚では、甘いものが果物で、「御菜」(おかず)になるのが野菜だろう。昨今は輸入による果物も増えて、それにも漢字が当てられる。

バナナは「甘蕉」あるいは「実芭蕉」と書く。漢字から想像がつくようにバショウ科の多年草である。バナナは大きな木に生る印象があるが、芭蕉は木ではなく草である。バナナは巨大な草に生えた実なのである(つまり、野菜ということになる)。松尾芭蕉知名度が高いので芭蕉の名を知らない人はまずいないが、その植物はあまり知られていない。バショウとは1m以上の大きな葉をもつ、高さ2~3mにもなる植物で、バナナのような実をつける。ただしこの実はまずくて食べられない。一方、尾瀬に咲く花として有名な「水芭蕉」(ミズバショウ)は、葉がバショウの葉に似ていることから付いた名であり、「芭蕉」とは全く関係のない植物でサトイモ科に属する。

キーウィはもともとニュージーランド固有の国鳥の名前で、キウイフルーツアメリカに輸出される際に、この国のシンボル的なこの鳥の名前をもらったもので、見た目が似ているからとかではない(でも少し似ている)。オニマタタビという植物の実なので「鬼木天蓼」と書くが(別項で)、漢名から「獼猴桃」と書くこともある。「獼猴」とは要するに猿のことである。

パパイヤはメキシコ南部原産のフルーツである。パパイヤ科はウリ科に近縁で、瓜に似た実をつけるので「木瓜」(モッカ)、「乳瓜木」(ちちうりのき)とも呼ばれ、「蕃瓜樹」と書いてパパイヤと読む(外国の瓜の樹という意)。また中国では古くから数え切れないほどの幸福をもたらす果実として珍重され、「万寿果」と呼ばれる。

マンゴーは、音訳から「檬果」あるいは「芒果」と書く。花は無数に咲くものの結実の少ないことから、仏教では悟りの困難さを示唆する木とされ、仏典の中では「菴羅」(アンラ)「菴摩羅」(アンマラ)という名で記され、原産地のインドでは聖木である。ウルシ科の植物なので「気触れる」(かぶれる)ことがある。ちなみにウルシ科に属す難読の熟字に「白膠木」(ぬるで)という植物がある。幹に傷をつけると白い汁が出て、かつてはこれを塗料として使っていたことから「白」い「膠」(にかわ)の「木」と書いた。

グァバはフトモモ科の熱帯性植物で、和名はバンジロウ、漢字では「蕃石榴」と書く(海外からのザクロの意味)。フトモモ科は下肢の「太股」(ふともも)とは関係なく、中国語の「蒲桃」(プータオ)が沖縄へ伝わった際「プートー」となり、本土へ入ってフトモモになった。ちなみにフトモモ科の植物には、コアラが主食とする「有加利樹」(ユーカリ)などが含まれる。

またイチジクも江戸時代に渡来した果物で、もともとは日本の植物ではない。原産地はアラビア地方で、イランを経て中国に伝わった。「映日果」(いちじく)と書くのはペルシャ語の音訳に由来する。「無花果」(いちじく)とも書くが、これは花を咲かさずに果実が生るように見えるからである。ところが実は果実だと思って食べている部分がイチジクの花なのである。和名は、実が一ヶ月で熟することから「一熟」→イチジクになった(『和漢三才図会』)。