漢字と熟字訓の由来を巡る旅

漢検準1級と1級に役立つよ

18 タンポポとコスモス (漢検準1級と1級に役立つよ)


タンポポとコスモス (キク科)

キク科の花は多くの花弁を持っているように見えるが、実は花びらのように見える一枚一枚がひとつの花なのである。花軸の上部が平らとなり、そこに多くの花を載せた頭状花序という、花の中でも最も進化した形態をとっている。その小さなひとつの花には舌状花と筒状花という二つの種類があって、タンポポのように舌状花だけから成るものと(タンポポ亜科)、ハハコグサのように筒状花だけから成るものやヒマワリのように筒状花の周りを舌状花が囲んでいるもの(キク亜科)に分けられる。

タンポポの茎をとり、両端にいくつかの裂け目を入れて水につけると、みるみる反り返る。その姿が「鼓」(つづみ)によく似ているために、タンポポはかつて「鼓草」(つづみぐさ)、「鼓子草」(つづみこぐさ)と呼ばれていた。またこの形が「タンポン、タンポン」という鼓の音を連想させることからタンポポの名になったのだと言われている。ただし現在では「鼓子草」と書くと(ヒルガオ)と読む。タンポポにはよく「蒲公英」という熟字が使われる。黄色く平たい花弁から鳧(かも)の黄色い嘴をイメージして、鳧公(かもさん)の英(はなびら)=「鳧公英」(フコウエイ)、これが転じて「蒲公英」(ホコウエイ)となった。

「母子草」(ははこぐさ)は筒状花だけからなるキク科の花で、春の七種の一つ「御形」(ゴギョウ)のことである。漢名で「鼠麹草」(ソキクソウ)と書くのだが、これは葉の両面に鼠の耳の毛のような綿毛を持ち、花の色が「麹色」(こうじいろ)をしているからである。またこれと対を成す「父子草」(ちちこぐさ)という植物もあるが、こちらは地味な褐色の花を咲かせる雑草である。漢名からは「天青地白」(ちちこぐさ)と書く。チチコグサの葉は裏面(地)だけに綿毛があり白く、表面(天)は緑色(青)をしていることに因んでいる。

また「雄菜揉み」(おなもみ)、「雌菜揉み」(めなもみ)というキク科の植物がある。ナモミとは毒蛇に噛まれた際、痛みを和らげるためにこの生の葉を揉んで傷口に塗ったことから「生揉み」が由来とされる。先に中国から渡来したのがオナモミで、やや遅れて小型のメナモミ、さらにはもっと小さな「小雌菜揉み」(こめなもみ)の順に渡って来たそうだ。オナモミの花は地味であまり知られていないが、これの小さな果実は棘に覆われ固い殻に包まれ、いわゆる「引っ付き虫」となる。これが耳飾りに似ていることから「巻耳」(おなもみ)とも書く。

コスモスは今や秋になると全国いたる所で見られるようになったが、明治初年に日本へ持ち込まれたばかりのメキシコ原産の花である。コスモスとはもと「秩序」を意味するギリシャ語で、そこから転じて「美しい」「宇宙」などの意味を持つようになった。秋に桜のような花を咲かせるから「秋桜」(コスモス)である。また外来種ではマーガレットもキク科の花で、明治末期に日本へ伝わった。アフリカのカナリア諸島が原産で、別名「木春菊」(もくしゅんぎく)と言い、これで(マーガレット)とも読む。

キク亜科の花はマーガレットのように黄色い筒状花の周りを舌状花が囲むのが標準的で、俗に野菊と呼ばれる花はみなこの形である。中でも野菊らしい花に、「嫁菜」(よめな)、「紫苑」(しおん)、「小車」(おぐるま)などがある。

ヨメナは若芽や若菜を摘んでおひたしなどの食用にされる。花弁がやさしく美しい姿から嫁に喩えられた。漢名からは「鶏児腸」(よめな)と書く。腸は細くて中空の臓器であることから、中国では中空の茎を「鶏腸」と呼ぶ。これに小さいことを「児」で表したのが「鶏児腸」の由来と思われる。

「石蕗」(つわぶき)もキク科の花でノギクのような姿をした花を咲かせる。「蕗」(ふき)と付くのは葉が蕗に似ているからで、「ツワ(石)」とは、海岸や浜辺の岩の上や石の間に生えることにちなんでいる。葉に艶(つや)があるから「艶蕗」とも書いて、これが語源だとする説もある。

 「小車」(おぐるま)は放射状に並んだ舌状花を小さい車に喩えた命名だが、この周りの舌状花がきれいな円形をなし、下を覆うように付いていることから「旋覆花」(おぐるま)とも書く(『図経本草」)。