漢字と熟字訓の由来を巡る旅

漢検準1級と1級に役立つよ

51 6月の誕生石と香木  (漢検準1級と1級に役立つよ)

 

6月の誕生石と香木

6月の誕生石はムーンストーンと真珠、欧米ではアレキサンドロライトも挙げられる。月の石の名を持つムーンストーンは淡い乳白色でまさに月の光のような光沢を放つ。和名も「月長石」(ゲッチョウセキ)である。

真珠は6月の誕生石だが、冠婚葬祭のいずれにも使えることから、誕生月にかかわらず人気の高い宝石である。この真珠も乳白色の光沢から「月の雫」との異名を持つ。真珠を作り出す貝として知られるのが「阿古屋貝」(あこやがい)だが、本真珠といえば本来「鮑」(あわび)によって形成されるものを指していた。そのアワビは「石決明」とも書く。

「夷草」「胡草」と書いて(えびすぐさ)と読むマメ科の植物がある。この種子を乾燥させると「決明子」(ケツメイシ)という漢方薬になる。決明とは「明を開く」つまり視力を回復するという意味である。一方アワビの貝殻を粉にしたものも決明の薬として用いられていた。このため草に由来する決明の漢方を「草決明」、アワビによるものを「石決明」と呼び、これがアワビを表す漢字となった。実際には「決明子」は眼病よりも便秘や胃腸病に使う薬となっている。「ケツメイシ」というグループがあるが、その名もこれに由来するらしく、便秘の薬ということで「すべてを出し切る」という意味が込められているとか。

話はさらに反れるが、歌舞伎の演目に仙台藩のお家騒動を扱った「伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)」というものがある。伊達家3代目の綱宗が遊郭通いに耽溺し、そのために次々と起こった事件を演じた名作である。伽羅(キャラ)とは香木の一種「沈香」(ぢんこう)の中でも特に香りがよい最高級のものを指す。「伽羅」と書いて(めいぼく)と読ませるのは、伽羅がすなわち「名木」だからである。宮城の萩は県花になるほど名高く、「先代萩」の名は「仙台萩」から来ている。この「先代萩」は「野決明」とも書いて(せんだいはぎ)と読むのである。ただし決明の効果はほとんど知られていない。

沈香」とは正式には「沈水香木」といい、水に沈む香木のことである。「沈丁花」(ジンチョウゲ)科ジンコウ属の樹木が分泌した樹脂が木部と共に固まったもので、木部の比重が重くなったことでこの木は水に沈むようになる。「沈丁花」(ジンチョウゲ)という花の名前も「沈香のような香りのする丁子(ちょうじ)のような花」という意味である。漢名で「瑞香」(じんちょうげ)(ズイコウ=めでたい香り)と書くのも、香りのすばらしさを示している。

またキク科には「木香」(もっこう)という名の花がある。根に甘い芳香があるので薫香料として、また胃薬などにも用いられる。この木香に根の香りが似ることから「吾木香」(われもこう=わが国の木香)という名のバラ科の植物もある。ワレモコウは「吾亦紅」とも書き、この語の方では「吾もまた紅い」と主張する。また花の蕾が×の字に割れた「木瓜(もこう)の紋」に見えることを語源として「割木瓜」とも書く。根を乾燥させたものは止血などに用いる生薬で「地楡」(チユ)と呼ばれる。葉が楡(にれ)に似ていて地面に広がるからで、ここから「地楡」(われもこう)とも読む。