漢字と熟字訓の由来を巡る旅

漢検準1級と1級に役立つよ

52 ヒノキ  (漢検準1級と1級に役立つよ)

 

ヒノキ

「檜」(ひのき)は台湾と日本にしか分布しない針葉樹で、大きいものでは30mを超える。和名は「火の木」に由来し、昔この木を擦り合わせて火を起こしたことによる。強く、ゆがみにくく、加工しやすくため、古くから建材として用いられてきた。

アスナロはヒノキによく似た日本特産の常緑針葉樹である。「明日は檜になろう」という意味から「明日檜」「翌檜」と書くが、一説にはヒノキに比べて葉が厚いことから「あつばひのき」から「明日はひのき」→「明日なろう」に転じたとも言われている。別名ヒバと言い「檜葉」と書く。またこのアスナロに「羅漢柏」(ラカンハク)と当てることもある。羅漢とは仏教において煩悩を脱して悟りの境地に達した聖者のことで、正式には「阿羅漢」と言う。「仙柏」と書くラカンマキはイヌマキの変種で、六月頃にブドウ大の丸い実を付ける。実の下には細長い果托があって、秋になるとこれが肥大して赤く色付く。その姿がまさに僧のようであることから「羅漢樹」と呼ばれるようになった。このイヌマキのことをアスナロと呼ぶ地域があり、混同されてしまったようである。「羅漢松」と書けば(いぬまき)と読む。

日本で「柏」(かしわ)と言えば、柏餅を包む葉を見てわかるように、ブナ科の広葉樹を指し、針葉樹のヒノキとは全く関係ない。これは中国で「柏」の字が常緑の木を指しているからで、「柏」という字を(かしわ)と読むのは日本独自の使い方(国字)なのである。このため、ヒノキ科には「柏槇」(びゃくしん)、「花柏」(さわら)、「側柏」(このてがしわ)など、どれも「柏」の字が使われる。

「杜松」(ねず)は「柏槇」(びゃくしん)の一種で、葉が針状で強く鼠をも突き刺すと考えられ、鼠よけに用いられた。「鼠刺し」(ねずみさし)と呼ばれていたものが縮まってネズと呼ばれるようになった。「杜松」(トショウ)と書くのは、果実が杜(やまなし)(リンゴに似た小さな実を結ぶ)に似て、葉が松に似ることに由来する。ちなみにビャクシンはヒノキガシワとも呼ばれていたために、「檜柏」で(びゃくしん)とも読む。

「花柏」(さわら)もヒノキに酷似した常緑樹だが、木材は柔らかく建築用材にはむかないため「弱檜」とも書く。サワラの語源も「さわらか(軽くて質が粗い)」から来ている。一字で「椹」(さわら)の漢字もある。

また、コノテガシワは子供が手を上げているかのように葉が直立している様子から「児の手柏」と呼ばれた。漢名から「側柏」と書くが、「側てる」(そばだてる)の意味で、やはり葉の様子を示している。もっぱら庭木などに用いられるヒノキ科の植物で、ブナ科の柏とは関係がない。

ブナ科の樹木は柏(かしわ)の他、栗、椎、椚、楢、樫などを含む落葉広葉樹である。ブナは漢名から「山毛欅」と書くが、山地に分布し、その葉には柔毛が生えて、欅(けやき)に似た用材であることから「山毛欅」(ぶな)である。またイヌブナという木があるが、頭にイヌと付くのは、たいていもとの植物に対して格が下がる際に用いられる蔑称である。ところが漢名では仙人をイメージする「仙」を使ったため「仙毛欅」と書いて(いぬぶな)と読む。「仙」は仙人のように人里離れた山奥にあることを意味している。