28 秋が旬の魚 (漢検準1級と1級に役立つよ)
秋が旬の魚
秋の魚といえば真っ先に「秋刀魚」(さんま)が思い浮かぶが、魚偏に秋と書く「鰍」(かじか)という魚がいる。ただ「鰍」は「秋の魚」の意味ではない。「秋」という漢字は他の部首に付いて「ぐっと引き締まって細い」ことを意味するとともに(シュウ)の音を表す(会意兼形声)。「楸」(ひさぎ、シュウ)、「鍬」(くわ、シュウ)、「鞦」(しりがい、シュウ)などが同系の漢字である。ところが偶々なのだがカジカは秋が旬の魚である。水の澄んだ小石の多い川に棲むハゼに似た魚で、「鮖」(かじか)とも書く。また漢語からの転用で「杜父魚」(かじか)と言う熟字も使われる。「杜父」は音の(トフ)から「土附」に通じ、川底で土に附していることを表す。カジカは別名ゴリとも呼ばれ、石の陰にじっとしている様子から「石伏魚」、または「鮴」と書いて(ごり)と読む。カジカの漁は、川の下流に網を仕掛け、上流にある石を動かして魚を追い込む「かじか押し」が有名で、これが「ごり押し」の語源となった。
秋の食卓によくのぼる卵を孕んだ小魚シシャモは、北海道南東部の太平洋沿岸にのみ分布する日本固有の魚である。鮭のように秋になると産卵のために川を上るので、この時期に卵をもったシシャモの漁が行われる。アイヌにはシシャモに関する伝説があって、それがシシャモの語源となっている。その昔、飢えに苦しむアイヌの人々の様子を見ていた神が、川に柳の葉を流したところ、柳の葉が魚となって泳ぎ出した。アイヌの人々はこれを食べて飢えから救われたという。アイヌ語で柳のことを“シシ”、葉のことを“ハム”といい、シシハムが転じてシシャモ、漢字の方も「柳葉魚」(ししゃも)と書く。
ホッケはアイナメ科の魚で北海道を主として北の日本海で漁獲されることから「北魚」(ほっけ)と書く。ホッケという名は北海道で法華経を説いていたお坊さんがおいしさを広めたことに由来するという。北の地でニシンの漁獲量が急速に減少すると、これに変わるものとして食されるようになった。幼魚は美しい青緑色をして、その群れて泳ぐ姿が花を思わせることから魚偏では「𩸽」(ほっけ)と書く。ここから「北花」(ホッカ)が語源と言う説もある。ちなみにアイナメは「鮎並」と書くが、これは味が鮎並みであるから、あるいは鮎のように縄張りを持つからである。アイナメは一年を通じて味が変わらないと言われるが、一応春から夏が旬とされている。
カマスは口先が尖り、下顎が上顎よりも飛び出しているのが特徴で、その大きな口を「叺」(かます)に喩えた命名である。叺とは「蒲簀」(かます)のことで、藁蓆(わらむしろ)を二つ折りにして左右両側を縄で塗った袋のことである。古くから穀物や石炭を入れるために用いられていた。「叺」の字は口から入れる袋を表した国字である。魚のカマスは漢名から「梭魚」「梭子魚」(かます)と書いて、機織り機の道具「梭」(す)に喩えている。また魚偏では「魳」と書く。老魚と言われるカマスには本来「鰤」の字が使われたのだが、「鰤」では(ぶり)と紛らわしいため、「師」の省略形「帀」が使われたのである。
カジキは頭部に突き出た剣のように長い吻が特徴的な魚である。マグロに似ていることからカジキマグロとも呼ばれ、あたかもマグロの一種であるかのように供されるが、マグロの仲間ではない。その吻で船の舵をとる硬い舵木をも貫くことから「舵木通し」と呼ばれていたのが由来だとされている。「舵木」と書くほか、「旗魚」とも書く。背ビレを水面から出して泳ぐ姿が、旗を振りながら泳いでいるように見えるからである。メカジキ、マカジキ、バショウカジキなどの種類があり、最も流通しているメカジキの旬は秋。