漢字と熟字訓の由来を巡る旅

漢検準1級と1級に役立つよ

29 冬が旬の魚  (漢検準1級と1級に役立つよ)

 

冬が旬の魚 

極寒の冬、凍った湖の上で氷に穴を開けてよく釣られているのがワカサギだが、国字では「鰙」、一般的には「公魚」(わかさぎ)と書く。かつてワカサギの産地、霞ヶ浦を統治していた麻生藩が徳川斉公(11代)にこれを年貢として納めていたことがあり、公儀御用達の魚という意味で「公魚」と称されるようになった。

一方、海に張った氷を割って漁獲をする「氷魚」「氷下魚」(こまい)と言う魚がいる。「鱈」(タラ)の仲間だが、タラとは違って身が硬いため、そのまま食べるのには適さず干物や練り物として使われる。「鱈」(タラ)も魚偏に雪と書くことからもわかるように、冬が旬の魚である。大きな口を開けて自分の体の半分くらいの動物にも襲いかかることから「大口魚」と書いて(たら)と読む。

魚偏に冬と書けば「鮗」(このしろ)という魚である。コノシロは出世魚で関東地方ではシンコ(新子)→コハダ→ナカズミ→コノシロと変化する。寿司屋で光物の代表、「小鰭」(こはだ)と言えばこの魚のことだ。武士にとってはコノシロを焼くことが、「この城を焼く」に通ずるとして嫌い、もっぱら酢付けにして食された。またコノシロを焼くと人を焼いたような臭いがするとも言われて好まれない。その昔、ある国に美しい娘がいて、その娘を見初めた国司が結婚を申し出た。ところが娘にはすでに恋人がおり、不憫に思ったその親が、国司の使いの前でこの魚を棺に入れて焼き、娘を死んだことにして難を逃れたという話がある。ここから「子の代わり」という意味の「子の代」と呼ばれるようになったと言われている。

冬の日本海はよく荒れて雷が鳴る。この時期になるとハタハタは産卵のために浅瀬に訪れて獲れ始めることから、「鱩」あるいは「雷魚」と書いて(はたはた)と読む。古くは雷神を「霹靂神」(はたたかみ)と言い、これがハタハタの語源だと言われている。「鰰」(はたはた)と書くのもこれに由来する。

また「鮟鱇」(あんこう)はたいへんグロテスクな魚だが、「西のふぐ、東のあんこう」と言われるほど美味で高級な魚である。その容貌から「暗愚魚」(あんこう)とも書く。茨城の郷土料理としても有名で、冬になるとよく鍋の食材にされる。

見た目がよく似るヒラメとカレイも冬の魚である。「左ヒラメの右カレイ」と言われるように、頭の方から見て顔の左側に眼が並べばヒラメで、右側に目が並べばカレイである(例外もある)。この特徴から「比目魚」(=目が並んだ魚)と書くが、この場合は(ヒラメ)と読む。ヒラメには「平目」「鮃」の字もあり、体の平たい特徴を表している。カレイは「鰈」と書いて、つくりの「枼」に「薄く平たい」という意味がある(「蝶」「葉」「牒」などと同系)。またカレイは漢名から「王余魚」(かれい)とも書く。

時は春秋時代、越の王が膾(なます)にした魚を片面だけ食べて、その残りの半身を水中に棄てたところ、それが生きたまま魚となったという。この逸話から王の余した魚と書くようになった(確かに半身のように見える魚である)。