漢字と熟字訓の由来を巡る旅

漢検準1級と1級に役立つよ

27 夏が旬の魚  (漢検準1級と1級に役立つよ)

 

夏が旬の魚

茹だるような猛暑の中、夏ばて予防に食べる魚と言えば、なんと言っても鰻である。「鰻」と言う字の旁側「曼」は「細長い」ことを表している。「漫」(おこたる、あなどる、ゆるい=ずるずる怠けて延びる心)、「蔓」(つる=ずるずる伸びる草)、「鏝」(こて:粘土を伸ばして壁を塗る道具)などと同系である。同じく夏が旬でウナギによく似た魚に「穴子」(あなご)がいるが、こちらはもっぱら海で獲れる魚なので「海鰻」(あなご)と書く。またこれらによく似た「鱧」(ハモ)も夏を旬とするウナギ目の魚である。ハモは肉食の獰猛な魚で何にでも噛み付くことから、「食む」(はむ)が語源と言われている。つくりの「豊」には「曲がりくねった」の意味がある。

魚偏に夏と書く漢字はないが、暑い季節が旬の魚に「鱪」(しいら)がある。殻ばかりで実のない籾(もみ)のことを「秕」(しいな)というが、シイラは皮が厚く中身が少ないことからこの名になったといわれている。頭が大きく不気味な容貌をしているシイラは「鬼頭魚」とも書く。「勒魚」と書いても(しいら)と読むが、これは、「腹の下に硬き刺ありて、人を勒す(動きを止める)魚」(『和漢三才図会』)と書かれており、シイラとしたのは誤用のようだ(「勒魚」が何の魚のことかはよくわからないらしい)。

アユ釣りは夏の清流の風物詩で、アユの縄張り意識の強さを利用した友釣りという独特な釣り方をする。アユという字を「鮎」と書くのも縄張りを占有することからだと言われるが、神功皇后が占いに用いたことが由来だとの説もある。中国では「鮎」の字はアユではなく、ナマズを指す。寿命が一年(一年魚)であることから「年魚」とか、香りの強い魚という意味で「香魚」とも書く。キュウリウオ科のアユは、キュウリのような臭いがする。

「鰧」(おこぜ)という魚は見た目がたいへん奇怪だが、実はたいへん美味な魚で、夏の「河豚」「鰒」(ふぐ)とも呼ばれている。オコというのは「容貌が醜いこと」を意味し、その恐ろしい形相から「虎魚」(おこぜ)とも書く。ちなみに「魚虎」と書けば(はりせんぼん)と読む。

コチも夏が旬の魚だが、たいへんな高級魚で、獲れれば高級料亭に持っていかれるために普段スーパーなどでお目にかかることはない。上から押しつぶしたような平たい体型をして、海底に埋もれながら生活をする魚である。平安時代の公儀の際、手に持ったしゃもじのような板を「笏」(コツまたはシャク)というのだが、形がこれに似ていることからコチと呼ばれた。漢語からは「牛尾魚」(こち)と書いて、体型を牛の尾に喩えている。普段は砂地にかくれてじっと伏していることから「鮲」(こち)、また獲物をとるときに海底から踊り上がるようにみえることから魚偏に「甬」と書いて「鯒」(こち)とも書く。

イサキも夏の魚で、この時期のイサキは麦わらイサキと呼ばれる。背中の縞模様が5つに分かれることから「五裂き」と言った。「伊佐木」という当て字もあるが、鋭く尖った背びれが鶏冠(とさか)を連想させるため「鶏魚」(いさき)とも書く。