漢字と熟字訓の由来を巡る旅

漢検準1級と1級に役立つよ

30 雨と雷  (漢検準1級と1級に役立つよ)

 

雨と雷

気象現象の表現には、晴れ、曇り、雨や雪に始まり多くの漢字が存在する。雨と雪が混ざって降れば「霙」(みぞれ)と呼ばれ、雨の降り方によっても「霎」(こさめ)や「霈」(おおあめ)、「霖」「霪」と書いて(ながあめ)という字もある。これらの漢字は通常、「霎時」(ショウジ=少しの間)、「霈然」(ハイゼン=大雨が降る様)、「霖雨」(リンウ)「霪雨」(インウ)と熟語で使われる。 

気象用語で「雹」(ひょう)と「霰」(あられ)はその粒の大きさによって区別され、直径5mm以上のものを雹といい、5mm未満のものが霰である。

晴れた空に雲のたなびく様子は「雲」という字を使って「靉靆」(アイタイ)という。これが中国明朝のころ、西洋から入った眼鏡を音訳する際に使われたために、今では眼鏡の意味も持つ。その雲が空の9割以上を占め、雨が降っていない状態が曇りである。雲が2~8割のときは晴れ、1割以下なら快晴と呼ばれる。雲が空の8割も覆っていたら曇りではないかと言いたくなるが、気象庁の定義上は晴れ(天気予報でも晴れ)。

霧は雲と同じ現象によるもので、大気に含まれた水蒸気が飽和して小さな粒となって空中に浮かんだものである。これが地面に接していなければ雲と呼ばれ、接していれば霧である。その「霧」と「靄」(もや)にも気象観測上の定義があって、視界が1km未満のものが霧で、1km以上10km未満のものが靄と呼ばれる。一方「霞」(かすみ)は気象用語ではないので、霧や靄との区別はない。ちなみに海に発生する霧は、「海霧」と書いて(カイム)あるいは(じり)と読む。

この他、曇りの中には「霾り」(つちぐもり)という気象現象がある。これは巻き上げられた土によって視界が妨げられる現象、要するに黄砂がひどい状態である。これが空から降ってくると「霾る」(つちふる)と表現される。

カミナリを表す漢字には、雷のほか「電」(いなずま)、「霆」(いかずち)などがある。「霹靂」(へきれき)も雷のことだが、こちらは「引き裂くように連なって鳴る」ような激しい雷を表現する。「晴天の霹靂」というのは雲のない晴れた空に突然そのような雷が起こることで、「何の前触れもなく突然起こる変動、大事件」の意味である。

夏から秋にかけて各地に被害をもたらす台風は、熱帯性低気圧のうち最大風速が17.2m/秒以上になったものと定義される。なぜこのような半端な数字なのかといえば、風速をノットという単位で表したためで、最大風速34ノット以上が台風である(正確には、四捨五入を考慮して33.5ノット以上)。いずれにしてもけっこう半端な数字だが、この風速以上にもなると被害が起こるだろうと想定した数字らしい(=風力8)。日本では古くから野分(のわけ)と呼んでいたものが、のちに「颶風」(グフウ)と言うようになり、明治末より台風の語が使われた(中国語の「颱」、英語の“typhoon”より)。もともと颱風と書いていたが、戦後の当用漢字の指定に伴って台風と書くことになった。「颱」は一字でも(たいふう)と読む。ちなみに海上の嵐は「時化」(しけ)と言うが、これは「湿気」からの当て字で、「時が化ける」と書くことに意味はない。海の風がぴったりやめば、「凪」(なぎ)である。