53 サルビアとラベンダー (漢検準1級と1級に役立つよ)
シソ科
俗にハーブと呼ばれる植物があるが、ハーブに明確な定義があるわけではない。ハーブとはもともと草を意味するラテン語で、現在は薬効のある植物全体を総称している。ハーブの多くは香りの強い、セリ科やシソ科の植物である。
「紫蘇」(しそ)の名は中国の伝説的な名医 華陀の逸話に由来する。その昔、洛陽の若者たちが蟹の大食い競争をして食中毒となり、死にかけてしまう。華陀がこの葉を煎じた紫色の薬を与えたところ、若者たちはたちまち蘇った。そこでこの薬草が「紫蘇」と呼ばれるようになったのである。薬草として用いる場合は、「蘇葉」(ソヨウ)と呼び、抗菌作用があり風邪薬などにも使われる。
ローズマリーは香料として、また精油(アロマオイル)として名高いハーブのひとつで、和名はマンネンロウという。常に芳香を放つことから「万年香」(マンネンコウ)と呼ばれていたものが、写し間違えによって(マンネンロウ)になったと言われる。漢名から「迷迭香」(まんねんろう)と書くが、「迷迭」(メイテツ)とは地名の音写である。
サルビアも紫蘇のイメージからはほど遠いが、シソ科の植物である。精油によく用いられるセージはサルビアの仲間で、一般的には観賞用に育てられるものをサルビアといい、香辛料や精油として用いるものをセージと呼ぶ。サルビアは「来路花」と書く(由来不明)が、青や紫、白や黄色などの多くの種類があり、特に赤いサルビアは「緋衣草」(ひごろもソウ)と呼ばれる。
また、香りの高いラベンダーもシソ科の植物で、こちらは薫りをまとう衣と書いて「薫衣草」(クンイソウ)の和名を持つ。
「籬通」(かきどおし)は繁殖力が強く、地を這って蔓が垣根を通り抜けてはびこる、というのが名の由来で、日本中どこにでも自生する植物である。葉の形がお金(銭)のようで、これが連なっていることから「連銭草」(かきどおし)とも書く。古くから子供の疳を取り除く生薬として用いられ、別名 疳取草(かんとりそう)とも呼ばれる。葉の形から「馬蹄草」(かきどおし)とも書く。
チョロギもシソ科の多年草で、根(塊茎)の形がイモムシ様で、これを蚕に見立てて「草石蚕」(ちょろぎ)と書く。これ自体にはほとんど味がないが、塩漬けにされたり、甘煮にされたりして食される。甘くすることが多いからか、「甘露子」(ちょろぎ)とも書く。「長老木」「長老喜」「千代呂木」という当て字もあり、縁起のよい食材としてお節料理の黒豆によく添えられてきた。チョロギという名は中国語の「朝露葱」を音読したものだとか、ミミズを意味する朝鮮語に由来するなどの説がある。
「目弾き」(めはじき)という植物は、昔の子どもがこの茎を短く切って上下のまぶたの間に挟み、目を閉じる勢いでこれを遠くへ弾いて遊んだ。「茺蔚」(めはじき)とも書いて、種が充ちて(=茺)盛んなこと(=蔚)を意味する。古くから中国で婦人病に用いられてきた薬草で、母の益になることから別名を「益母草」(ヤクモソウ)という。