漢字と熟字訓の由来を巡る旅

漢検準1級と1級に役立つよ

50 5月の誕生石と美女  (漢字検定準1級と1級に役立つよ)

 

5月の誕生石と美女

5月の誕生石は、「緑玉」(リョクギョク)あるいは「翠玉」(スイギョク)と呼ばれるエメラルドである。エメラルドグリーンという色があるように鮮やかな緑色をした宝石だが、石の成分はアクアマリンと同じである。ベリリウムを含んだベリル(緑柱石)と呼ばれる鉱石にクロムが混ざるとエメラルドとなり、鉄が入るとアクアマリンになる。

「翠」はもともとカワセミのオスを表す漢字なのだが、その青緑に輝くカワセミの羽の色をも表すようになった。「翠嵐」(スイラン)という言葉があるが、これは青緑色にうっすら包まれた山に立ち込める気のことを指す。同じ(スイラン)でも「翠巒」と書けば緑に色付いた山々のことである。

美しい女性を喩える熟語はたくさんあるが、「翠黛」(スイタイ)は「青緑に描かれた女性の黛(まゆずみ)」から、美人の形容に使われる。反対の色「紅」を使って「紅裙(紅のもすそ)」(コウクン)も美しい女性のことであるが、こちらは芸者などに使う語である。

古来中国には時代時代に絶世の美女が現われては、時を担った武将や皇帝の陰で歴史を彩ってきた。例えば「阿嬌」と言えば美人を表す言葉だが、これは前漢武帝の皇后の幼名である。たいへん美しい人として知られた存在であったことから、次第に「阿嬌」が美しい人を指す語になった。

「傾城傾国」(けいせいけいこく)とは「一度会えば城が傾き、再び会えば国が傾く」ほどの美女のことで、もともとは唐の皇帝・玄宗の妃 楊貴妃のことを指していた。玄宗は美しい妃との愛欲生活に溺れ、政務を怠り、その挙句反乱が起こって都を追われる。そして楊貴妃もその責任を負わされて処刑されてしまう。この故事から「傾城」「傾国」と言えば国を傾かせるほどの美女を表す言葉となった。

「雛罌粟」(ひなげし)は別名 虞美人草と呼ばれるが、「虞」とは楚の武将・項羽の恋人の名である。項羽は宿敵・漢の劉邦との戦いに敗れ、楚軍は垓下の地で追い詰められて包囲される。このとき四方から楚の国の歌が聞こえてきた。これは楚軍が劉邦の手に落ちたと思わせるための劉邦の策略で、これが「四面楚歌」という四字熟語の出自である。悲嘆した二人は別れの宴を開き、その後、虞は自ら命を絶ってしまう。一方項羽は決死の反撃を試み、一度は漢軍から逃れたものの、今度は単身で漢軍に挑み、最後には自害する。「虞」を葬った墓からは毎年夏になると赤いヒナゲシが咲くようになった。この伝説が「虞美人草」の由来である。単に「美人草」と書いても(ひなげし)のことである。

「罌粟」(けし)はアヘンやヘロインの原料で、日本では一般の栽培は禁止されている。しかしヒナゲシから麻薬は作れないので、ポピーの愛称でよく園芸用に植えられる。「罌粟」(けし)と書くのは実が「罌」(口の小さく体の大きなかめ)に似て、種子が「粟」に似るからである。また「芥子」(けし)とも書くが、これは「芥子菜」(からしな)の種子とケシの種子が似ているために混同された。漢名(中国語)から「麗春花」と書いても(ひなげし)と読む。