漢字と熟字訓の由来を巡る旅

漢検準1級と1級に役立つよ

1 アサガオとサツマイモ  (漢検準1級と1級に役立つよ)


アサガオとサツマイモ(ヒルガオ科)

朝顔」(あさがお)は夏のはじめに庭先で鉢植されるお馴染みの花で、朝咲いて昼ごろには萎んでしまうことからこの名がついた。ヒルガオ科の一年草で、「牽牛花」(ケンゴカ)あるいは「牽牛子」(ケンゴシ)とも書く。アサガオの種子には薬理作用があり(主に緩下作用)、その昔、王の大病をこの種子で治した農夫がその謝礼に牛を与えられ。これを大切に牽いて帰ったという逸話から「牽牛花」と呼ばれるようになったのだという。他にも、牽牛星(彦星)が夜空に現れる頃に咲くからだとする説もある。

現在ではすっかり定着している朝顔の名であるが、古くは朝を代表する花は「桔梗」(ききょう)であって、万葉集の中で朝顔といえば桔梗を指していた。このためかつては「桔梗」と書いて(あさがお)とも読んだ。その後、大陸から「木槿」(むくげ)が渡来すると、今度はこれが朝顔と呼ばれるようになった。本来はムクゲを意味する「蕣」という字を(あさがお)と読むのもそのためである。「舜」は“はやい”という意味を持ち、「蕣」は咲くのも枯れるのもはやい植物のことを指している。時代が下って平安中期になると、薬用として入ってきた「牽牛花」が花の可憐さから民間に広まって、朝一番の顔である「朝顔」の座を奪ってしまった。

「昼顔」(ひるがお)は、アサガオとよく似た花を咲かせるが、朝顔よりやや遅れて開花し、夕方まで日中萎まずに咲いていることからヒルガオである。朝顔と違って種子はほとんどできず、地下茎を四方に伸ばして繁殖する。一度根付くと駆除が難しいので、朝顔のように観賞用というよりは雑草扱いとされることが多い。ヒルガオは(ヒルガオ科の花はどれも)蕾が回旋しているため「旋花」(ひるがお)と書く。また漢名から「鼓子花」という熟字もある。

夕方から翌朝にかけて花を咲かせることから、夕顔、夜顔、という花もある。夜顔のことを夕顔と呼ぶこともあるが、一般に夕顔といえばウリ科の植物で、朝顔、昼顔とは近縁な植物ではない。

ユウガオはウリ科なので、「糸瓜」(へちま)によく似た実をつける。これを細長く帯状に剥いて加工したものが巻き寿司などに使われる「干瓢」(かんぴょう)である。また古くから水や酒の入れ物として重宝されてきた「瓢箪」(ひょうたん)もユウガオの実である。アフリカ原産のユウガオが各地へ伝わるうちに実の形が変化して行ったのである。瓢箪には水蒸気を通す微細な穴があり気化熱が奪われるため、暑い日でも中に入れた水や酒が低い温度に保たれる。たいへん理に適った入れ物である。

女性に人気のサツマイモも実はヒルガオ科の植物で、花はアサガオによく似ている。九州から伝来したので「薩摩芋」なのだが、「甘薯」あるいは「甘藷」(カンショ)と書いてもサツマイモと読む。「芋」「薯」「藷」のいずれも(いも)と読む漢字だが、「芋」「薯」はイモ類全体を、「藷」の方は特にさつまいもを指す。ちなみに「蔗」(ショ)の字を使い、「甘蔗」(カンショ・カンシャ)と書けば(さとうきび)と読む。

 サトウキビは「砂糖黍」の名の通り砂糖の原料となる重要なイネ科の農産物で、「蔗」の一字でも(さとうきび)と読む。「蔗境(シャキョウ)に入る」とは話がだんだんおもしろくなることを言うが、これはサトウキビを食べていると根元に近づくほど甘みが強くなることに由来する。熱帯から亜熱帯産の植物であり、日本では沖縄地方の特産である。一方、砂糖のもうひとつの原料「甜菜」(てんさい)は寒さに強く、寒冷地作物としておもに北海道で栽培される。アカザ科の植物で、砂糖大根とも呼ばれる。ちなみにアカザ科の代表的な植物といえば、「菠薐草」(ほうれんそう)がある。「波稜」とは原産地のペルシャから中国へ伝来する際、経由地となったネパールの旧称で、これに草冠を載せたのが「菠薐」で、さらに「草」が付いて「菠薐草」となった。