漢字と熟字訓の由来を巡る旅

漢検準1級と1級に役立つよ

2 キュウリとメロン  (漢検準1級と1級に役立つよ)


キュウリとメロン(ウリ科)

ウリ科の植物は果物や野菜としてたいへん馴染みが深いが、そのほとんどは熱帯・亜熱帯原産で、海を渡って日本へ入ってきたものである。「西瓜」(すいか)、「南瓜」(かぼちゃ)、「冬瓜」(とうがん)、「糸瓜」(へちま)、「越瓜」(しろうり)、「甜瓜」(まくわうり)、「苦瓜」(にがうり、ゴーヤ)、「烏瓜」「王瓜」(からすうり)、「胡瓜」(きゅうり)、など、「瓜」のつくものだけでも数多い。

イカ南アフリカが原産で、西方から中国へ入ってきたことから「西瓜」である。一方、カボチャの原産地は南アメリカで、カンボジアを経由して日本へ伝わったためにカンボジアが訛ってカボチャとなった。南方から来たので「南瓜」である。トウガンは夏に収穫される夏野菜なのだが、劣化しにくくそのまま冬まで保存が可能であることから「冬瓜」と書いた。またヘチマは実が繊維質であることから糸瓜(いとうり)と呼ばれていたものが、(とうり)と縮まり、いろは詩で”と”が“へ”と“ち”の間にあることから「へち間」とふざけて呼ばれていたものが定着した。若い実は食用にもされるが、ヘチマの水分(ヘチマ水)は薬用に、また繊維をたわしなどに使われてきた。

シロウリ、マクワウリは甘みがあって薫り高いいわゆるメロンの一種である。シロウリはキュウリに比べて色が白いことから白瓜なのだが、中国南部(越)でよく栽培されていたことから「越瓜」と書く。またマクワウリは岐阜県真桑村の名産であったことから付いた名である。甜(あま)い瓜なので「甜瓜」と書くが、これで(メロン)とも読む。

一方カラスウリは食用にされることはなく、もっぱら薬用に用いられてきた。名前の由来は烏が好んで食べるからだとか(実際のところ、烏は食べない)、食用にならないことから「つまらないもの」を意味する蔑称として烏と付けたのだ、など諸説ある。「王瓜」と書いて中国では別種の瓜を指しているので、「王瓜」を(からすうり)と読むのは誤用である。また「老鴉瓜」(からすうり)とも書くが、これも「鴉」と言う字が入っていたことによる誤用で、本来は別種の瓜である。

「胡瓜」(きゅうり)は胡の国から持ち込まれた瓜の意味で、熟すと黄色くなることから「黄瓜」とも書く。「木瓜」とも書くようだが、「木瓜」と書くと別の植物を指すことが多い。

木瓜」(ぼけ)は瓜のような形をした実を付けるが、バラ科の植物である。木本に生る瓜の意味で、「木瓜」と書いて(もっけ)と呼んでいたのが(もけ)→(ぼけ)となった。また「木瓜」を(マルメロ)と読めば、洋梨のような実を付けるバラ科の植物で、「榲桲」(マルメロ)とも書く。「榲桲」という漢字は体を「温め」、香りを「芬馞」させる植物の意味である。

木瓜」に「野」が付いて「野木瓜」と書くと(むべ)と読む。秋に赤紫の甘い実を付けるアケビ科の植物である。ムベという名は天智天皇の発せられたお言葉に由来するとされている。天皇が狩りのため琵琶湖のほとりに出かけた際、その地で8人の子供を持つ健康な老夫婦に出会われた。「どうしてそのように長寿なのか」と尋ねると、その夫婦は無病長寿の霊果としてこの実を差し出した。これを賞味した天皇は「むべなるかな(いかにももっともなことである)」と得心され、以来この果実をムベと呼ぶのだそうだ。「郁子」(むべ)とも書くが、これは「郁李」(にわうめ)との勘違い(文字・意味とも)ではないかと考えられている。

ムベはアケビ科の植物なのでその実はアケビとよく似るが、アケビのように実が裂けない。片やアケビは「開け実」が語源とされるように、秋になって実が熟すと裂けて肉を表す。その姿を女陰に見立て「山女」と書いて(あけび)と読む。またアケビは蔓性の植物で、その蔓には細い孔が通っていてストローのように空気が通るという特徴を持つ。ここからアケビは「木通」「通草」とも書いて、この蔓を乾燥させたものは「木通」(モクツウ)と言う名の生薬として用いられる。よくできたもので、その薬効も尿の通りを良くする利尿作用にある。

ちなみにクチナシは果実が熟しても割れないことから「口無し」の名となった。夏に香りのよい白い花を咲かせるアカネ科の植物である。実が「巵」(さかずき)のような形をしているから、漢名からは「梔子」(くちなし)と書く。この実をそのまま食べることはまずないが、染料として、あるいは乾燥させたものを生薬「山梔子」(サンシシ)として用いられる。