漢字と熟字訓の由来を巡る旅

漢検準1級と1級に役立つよ

12 ツツジと満天の星(ツツジ科)と足  (漢検準1級と1級に役立つよ)


ツツジと満天の星(ツツジ科)と足

ツツジは4~5月頃に漏斗型の花を咲かせるツツジ科の植物で、漢字では「躑躅」と書く。「皐月」(さつき)や「石楠花」(しゃくなげ)もツツジの仲間で、春になると一斉に白やピンクの花を咲かせる。「皐月」の名もちょうど5月頃に花を咲かせることからこう呼ばれたのである。シャクナゲの名は枝分かれが多く、まっすぐの枝はどれも一尺に満たない、ここから「尺無げ」となったという説や、これを材にして作った箸を使うと子どもの癪が治ったという「癪無げ」説、聖徳太子がこの花の美しさに笏を投げて見入ったという説まである。信憑性が高いのは、中国の別種「石南花」を誤ってこの花に用いて(しゃくなんげ)と読み、転じてシャクナゲになったという説である。

ツツジの仲間にドウダンツツジという種があり、「灯台躑躅」と書く。ここでの灯台とは古く宮中で使われた結び灯台(3本の棒を組み合わせて油皿を載せた灯明台)のことで、岬の灯台とは関係ない。枝分かれの様子がこのむすび灯台に似ていることからこの名がついた。漢語では「満天星」と呼ばれており、これで(どうだんつつじ)と読む。中国の太上老人君が霊薬を練っているうちに誤ってこぼした霊水が、たまたまこの木の枝に降りかかり、まるで満天の星のように輝いた、という逸話に由来する。また「満天星」という熟字はアカネ科の(はくちょうげ)にも使われる。ハクチョウゲとは鳥の白鳥ではなく、葉の形が「丁子」(ちょうじ)の葉に似ていて、白い花を咲かせることから「白丁花」(はくちょうげ)なのである。白い5弁の小さな花を無数に咲かせた様子はまさに満天の星を思わせる。花期は5~7月で、一面に咲いた真っ白な花を降り積もった雪に見立てて「六月雪」(はくちょうげ)とも書く。

話を「躑躅」(つつじ)にもどすと、躑(テキ)も躅(チョク)も本来、立ち止まったり、ためらうことを意味する漢字で、「躑躅」をそのままテキチョクと読めば、その場で足踏みをして前に進まないことを意味する熟語である。なぜこれがツツジと読むようになったかと言えば、ツツジ科の花にはけいれんや呼吸困難を来たす有毒のものが多く、羊がツツジを食べた際、その場でじっと動けなくなったことから「羊躑躅」と呼ばれ、のちに羊が省略されて「躑躅」と書くようになった。アセビ(アシビ)という植物も、同じような毒を持つツツジの仲間で、こちらは羊ではなく、馬が食べるとフラフラになることから「馬酔木」(あせび)と書く。

「天に跼(せぐくま)り、地に蹐(ぬきあし)す」という詩経に由来する故事がある。「天は高いのに頭がつかえないかと背をかがめ、大地は強固なのに沈むのではないかとそっと歩く」という意味で、「非常に恐れてびくびくする様子」を表している。ここから「跼天蹐地」という四字熟語が、さらに「跼蹐」(キョクセキ)という熟語が生まれている。この跼という字と躅を合わせて「跼躅」(キョクショク)と書けば行き悩むことを表し、「騏驥(キキ)の跼躅は駑馬(ドバ)の安歩に如かず」(名馬でもためらいながら走れば、ゆっくり歩く並みの馬にも及ばない)のように使われる。同じく、行き悩む様子を「躊躇」(チュウチョ)と言うが、これを「躊躇う」と書けば(ためらう)と読む。

「蹣跚」(マンサン)、「蹌踉」(そうろう)はどちらもよろめきながら歩くことで、「蹣跚めく」「蹌踉めく」と書いて、よろめくと読む。つまずいてしまえばその場に立ち尽くすことになり、「蹉跎」(サタ、サダ)とはつまずいて転ぶこと、あるいはぐずぐずして時機を失うことで、「蹉跌」(さてつ)と言えばつまずいてすっかり挫折することを意味する熟語である。「蹉」、「跎」、「跌」にはいずれも(つまずく)の読みがある。

この他、足偏の漢字は、「躓」(つまず)く、「蹲」(うずくま)る、「跪」(ひざまず)く、など、足があるのになかなか前へ進まない字ばかり。