漢字と熟字訓の由来を巡る旅

漢検準1級と1級に役立つよ

62 鳳凰  (漢検準1級と1級に役立つよ)

 

鳳凰

鳳凰は想像上の神聖なる瑞鳥で、麒麟霊亀、応龍とともに「四霊」と呼ばれる。鳳凰は羽蟲(鳥のように羽のある生物)360種の長、麒麟は毛蟲(獣のように毛のある生物)360種の長、霊亀は甲蟲(甲殻類のように殻や甲羅のある生物)360種の長、応龍は鱗蟲(蛇や魚のように鱗のある生物)360種の長とされていた。ちなみ人間は裸蟲の長である。この場合の「蟲」は動物全般を表している。

鳳凰の姿は時代によって(書物によって)異なるが、最も古く全身を表現した『説文解字』では「前は鴻(おおはくちょう)、後ろは麟、首は蛇、尾は魚、額は鸛(こうのとり)、髭は鴛鴦、紋様は龍、背中は亀、嘴は鶏、頷は燕、体色は5色」と記されている。竹の実を食べ、醴泉を飲み、「梧桐」(あおぎり)の木に棲む。平和で理想的な世になると現れると信じられ、平等院鳳凰堂金閣寺の屋根に飾られている。

この鳳凰に肖って「鳳」の字を使う動植物がある。

鳳仙花(ほうせんか)は鳳凰と仙人の語を持つ高貴な名前をもった花で、夏になると紅~ピンク(白もある)の花を咲かせる。昔はよくこの花弁を使って爪を染めていたことから、爪紅(つまべに、つまくれない)の別名がある。そのため「爪紅」あるいは「染指花」と書いても(ほうせんか)と読む。

ソテツは熱帯~亜熱帯地方に自生する裸子植物で、古生代に繁栄して以来、今日に至るまで存命し続けている生きた化石である。葉は多数の線状の小葉が集まった大きな羽状で、これを鳳凰の尾に喩えて「鳳尾松」(そてつ)と表記される。ソテツは植物が衰弱したときに、根元に鉄を埋めることで蘇生すると言われている。「蘇鉄」(そてつ)の名はこの伝承に由来する。漢名からは「鉄樹」「鉄蕉」と書いてソテツと読む。

パイナップルは熱帯アメリカ原産の植物で、果実の形が松かさに似ているためにパイン(松)+アップルの名が付いた。ここでのアップルはリンゴと言うよりも単に果実であることを意味するようだが、中国ではリンゴの替わりに「梨」が使われて「鳳梨」(ホウリ)と書く。

アゲハチョウは止まった時に「羽を揚げて」休むことから「揚羽蝶」なのだそうだが、羽をたたんで止まるのはほとんどの蝶に共通した特徴である。羽を広げて止まるものは一般に「蛾」と呼ばれる。ただし、生物学的に蝶と蛾の間に明確な区別があるわけではない。アゲハチョウは蝶の中でもひときわ大きく優美な姿をしているために、「鳳」が使われて「鳳蝶」(あげはちょう)と書く。

 鳳凰と並ぶ伝説の鳥に「鸞」(らん)という鳥がいる。鳳凰に比べるとめっきり影が薄いが、一説には青い鳳凰のことだとか、あるいは鳳凰の雛のことだとも言われている。「鸞鳳の交わり」と言えば徳の高い人同士の交際を意味し、「鸞翔鳳集」とは賢人が集まって来ることの喩えである。熟字訓では「双鸞菊」(かぶとぎく)に使われて、優美な青い花の姿を二羽の鸞に例えた。

カブトギクとはいうものの菊とは関係なく、キンポウゲ科に属するいわゆるトリカブトの仲間である。