漢字と熟字訓の由来を巡る旅

漢検準1級と1級に役立つよ

61 10月の誕生石と虹  (漢検準1級と1級に役立つよ)

 

10月の誕生石と虹

 10月の誕生石オパールは「蛋白石」と書く。蛋白とはもともと卵の白身のことで、オパールの色が卵の白身が熱で少し固まったときの薄い膜のような半透明の乳白色をしていることによる。オパールには虹色に輝くものがあり(遊色効果)、特に人気が高く「虹色石」と呼ばれる。

空にかかる「虹」が虫偏なのは、古代中国で虹は龍の化身と考えられて、虫偏が「蛇」を、旁の「工」は「貫く」を意味して「天を貫く龍」を表した。龍には7つの格付けがあり、上位から龍→蛟→虹蜺→蜃(應)→虬(虯)→螭→蟠となっている。蛟(みずち)は水に住み龍になって天に上る直前の姿、翼があれば應龍、角があれば虯龍、角がなければ螭龍、天に昇れなければ蟠龍という格付けである。このうち「蜃」(シン)は(おおはまぐり)とも読み、吐く息が「蜃気楼」を作り出す龍の一種とされていた。ただ、そもそも実在するわけではないので、すべてが逞しい想像力の賜物である。

龍は中国神話の霊獣で、「角は鹿、頭は駱駝、眼は鬼あるいは兎、体は大蛇、腹は蜃(蛟の意味)、背中の鱗は鯉、爪は鷹、掌は虎、耳は牛」に似ると言われる。この姿より、龍はすべての生き物の祖であり、長であるとされている。頑強な顎の下には一枚だけ逆さに生えた鱗「逆鱗」(ゲキリン)があり、その中には水晶の中心に赤珊瑚珠を封じた宝珠をもっている。人がそれに触れようとすると竜が怒ってその人を殺すといわれ、これが「逆鱗に触れる」という慣用句になった。「驪龍(りりょう)頷下(がんか)の珠」という言葉も、危険を冒さなければ得られないものの喩えとして使われる(驪龍とは黒い龍)。

『述異記』という書物には「泥水で育った虺(キ:まむしのこと)は五百年で蛟(みずち)となり、蛟は千年で龍となり、龍は五百年で角龍、角龍は千年で応龍になり、年老いた応龍は黄龍と呼ばれる」とある。このうち応龍は四霊のひとつである(鳳凰の項に)。「龍」という字は「竜」の旧字体だと思われているが、実は「竜」の字が先にあり、これに装飾(誇張)が加わって「龍」という漢字ができたそうだ。確かに「龍」という字は非常に立派な文字だと思う。

「龍」の字には「太い筒型」のイメージがあり、「龍」を含む漢字には(ロウ)という読みとともにこれを表わすものが多い(会意形声文字)。

太い筋となって流れ落ちる「滝(瀧)」(たき)は、龍のような姿の典型である。「滝(瀧)」の字に(ロウ)の音読みがあることはあまり知られていない。また、かごを漢字で書く場合、通常「籠」(かご、ロウ)の字が使われるが、この「籠」とはもともとは円筒状で細長い竹製のかごを指していた。四角い竹製のかごの場合は「筐」(かご)、円筒状の竹かごには「筥」(はこ)の字があり、「筐筥」(キョウキョ)で両者を表す。また取手のついたかごには「籃」(かご)が、鳥かごを表すには「樊」(かご)という漢字がある。筒状の形をしたものとしては「礱」(すりうす、ロウ)も同系である。

「壟」(うね、ロウ)もこの流れを引く漢字である。畑のうねも確かに龍を思わせるように細長く、大蛇のような形をしている。この字を使った「壟断」(ろうだん)という言葉は、利益を独り占めにすることを指す。中国のある商人が高い所(壟)から市場を見渡して、安いものを買占め、それを高く売って利益を得ていたという故事に由来する。

「隴」(おか、ロウ)も「壟」とほぼ同じ意味をもち、畑のことを「壟畝」「隴畝」(ロウホ)と言う。「隴を得て蜀を望む」という慣用句があるが、この場合の「隴」はかつて中国に存在した小さな国のことである。後漢光武帝が「隴」の地を得たところ、さらにその先の「蜀」の国までも手に入れたいと、欲望が際限なく膨れ上がることを自ら嘆いたとの故事に由来する。人の欲望には限りないことのたとえで、ここから「望蜀」(ボウショク)という熟語も派生している。

「蘢」は(いぬたで、ロウ)と読む。イヌタデタデ科一年草でどこにでもある雑草である。タデのようだが、葉に辛味がなく役に立たないという意味で頭に蔑称の「犬」が付いた。イヌタデの「草がぼうぼうもやもやと茂って得体の知れない様子」を「龍」で表している。こちらの意味では「朧」(おぼろ、ロウ)という字も同系で、「大きくかすんで得体の知れない」ことから、ぼんやりかすんだ月の光を表した。月の光と限定しないぼんやりした光には「曨」(おぼろ、ロウ)という字もある。また耳がぼんやりとして聞こえないのが「聾」(ロウ)である。

同系ではないが、「襲」(おそう、シュウ)、「寵」(めぐむ、チョウ)、「龕」(ずし、ガン)、「龐」(ホウ)などなど、「龍」は16画にもなる難しい字ながら、この字を使う漢字はたいへん多く、龍を横に並べた「龖」(トウ)、3つ使った「龘」(トウ)、4つ使った「𪚥」(テツ)(64画)の字もある。