漢字と熟字訓の由来を巡る旅

漢検準1級と1級に役立つよ

55 花の咲かない植物  (漢検準1級と1級に役立つよ)

 

花の咲かない植物

 現在の分類では、植物は大きく種子を持たないコケ植物、シダ植物と種子を作る種子植物に分けられる。種子植物の中で、胚珠(種子になる部分)がむき出しのものが裸子植物で、子房に被われているのが被子植物である。美しい花は花粉の媒介者をおびき寄せるために進化したものなので、風に花粉を媒介してもらう裸子植物には花らしい花は咲かない。人(虫)の目を引く鮮やかな花、香りの良い花、おいしい果実はすべて被子植物のものである(最も進化した植物)。昨今は遺伝子学の進歩によって植物の分類は、これまでの伝統的なもの(古いもの?)とはかなり変わってきているので、図鑑・事典によって植物の分類は多少異なる。

 コケ植物は茎と葉だけからなる最も原子的な植物で、よく知られているのはスギゴケとゼニゴケである。スギゴケは杉の枝のような茎が土から直立して密生するコケなので「杉苔」、漢名ではこれを馬の鬣(たてがみ)に喩えて「土馬騌」と書く。ゼニゴケは湿地に繁殖するコケで、破れ傘のような葉が群生する。これは銭に見立てられて「銭苔」あるいは「地銭」(ぜにごけ)である。

シダの語源は「枝垂れる」からで、漢名からは「羊歯」と書く。葉の周囲の裂片が羊の歯に似ていることに由来する。シダの一種ヤブソテツは、土から出た根茎から多数の葉が放射状に伸びる様子から「貫く」と「衆」(数が多い)とで「貫衆」(やぶそてつ)と表現された。広がった葉の形を鳳凰の尾に見立てて、「鳳尾草」(ほうびそう)とも呼ばれる。

イワヒバは何の肥料もないような岩場に生えるシダで、その葉がヒバに似ていることから「岩檜葉」である。漢名からは「巻柏」(いわひば)と書いて、葉の形がやや巻いていることと、常緑樹を表す「柏」を用いて表している。シノブグサも土のない何の栄養もないような場所に生えることから耐え忍ぶ→「忍ぶ草」と呼ばれ、垣根や屋根や石の上でそれらを覆った衣のようにも見えることから「垣衣」(しのぶぐさ)と書かれた。

またシダ類にはトクサの仲間も含まれる。トクサとは茎の表面が非常に固くザラザラした植物で、乾燥させたものは「砥石」のように研磨に用いられてきた。「砥ぐ草」から「砥草」(とくさ)である。木をも磨くことから、木にとっての賊という意味で「木賊」(とくさ)とも書く。トクサと言えばツクシ・スギナもトクサの仲間である。「ツクシ誰の子スギナの子」と童謡で歌われるようにツクシとスギナは同一の植物である。一つの根茎から胞子を作るために伸びるの(胞子茎)がツクシで、栄養を取るために葉をつけるの(栄養茎)がスギナである。ツクシは筆の形に見えることから「土筆」あるいは「筆頭菜」と書き、スギナは葉が杉に似ていることから「杉菜」である。スギナは節のところで抜いても継ぐことができることから「継ぐ菜」を語源とする説もあり、「接続草」(つぎな)とも書く。これを乾燥させたものは「問荊」(モンケイ)という生薬になるので、「問荊」(すぎな)とも読む。

 裸子植物はソテツ、イチョウとマツなどの針葉樹類に分けられる。

 イチョウ中生代に世界中に繁栄した植物で、現存しているのはただ一種のみとなった生きている化石である。その実の形が杏に似て銀白色をしていることから「銀杏」と書いてイチョウと読む。また鴨の足のような形をした葉に因んで「鴨脚樹」(いちょう)、また公(爺)が種を植えても実が生るのは孫の代になってからとの意味で「公孫樹」(いちょう)とも書く。

 マツやヒノキに代表される針葉樹はすべて裸子植物で、そのほとんどが常緑樹である。マツの中で唯一常緑でなく落葉するのがカラマツで、「落葉松」(からまつ)と書く。

また針葉樹の中に「一位」(いちい)という尊大な名を持つ植物がある。儀式のとき高官が持つ笏という板を作るのに用いられ、位階の正一位従一位に縁が深いということから「一位」と名づけられた。材は日本の木材の中でずばぬけて赤く、「赤檮」(いちい)と書くのは赤い切り株の意味である。