漢字と熟字訓の由来を巡る旅

漢検準1級と1級に役立つよ

54 変わった哺乳動物  (漢検準1級と1級に役立つよ)

 

変わった哺乳動物

哺乳動物の中に嘴(くちばし)を持ち、卵を産むカモノハシという動物がいる。鳥のようだが翼を持たず、母乳で子供を育てることから歴とした哺乳動物で、カモのような嘴を持つことから「鴨嘴獣」(かものはし)と書く。

またカンガルーに代表される有袋類も哺乳動物でありながら、人のように胎盤をもつ動物とは全く異なる進化の過程を辿ってきた動物である。カンガルーは「袋鼠」と書くほか、長い尾をしたロバの意味で「長尾驢」や、音からの当て字で「更格廬」と書いてもカンガルーと読む。

これらの哺乳動物に対して、胎盤を持つものは真獣類と呼ばれる。その中にも独特な特徴をもつ動物たちがいる。

ナマケモノは名前の通り、なまけているかのように一日のほとんどを木にぶら下がって過ごし、漢字でも「懶」(おこたる、ものうい)を用いて「樹懶」(ななけもの)と書く。また、アリクイはその名の通り、蟻を食べることに適応した動物で、「食蟻獣」(ありくい)と書く。これらは以前、アルマジロとともに歯が貧弱であることから貧歯目と呼ばれていたが、今は有毛目に分類される。

同じく蟻を主食とする動物にセンザンコウがいるが、こちらは全身を硬い鱗(うろこ)で覆われ、敵に襲われると丸くなって身を守るのが特徴的な動物である。中国では「龍鯉」「鯪鯉」(リョウリ)と呼ばれ、鱗があることから竜の仲間と考えられていた(背中の鱗が鯉のようであるから「鯉」の字を使う)。山に穴を穿って棲む動物の意味から「穿山甲」(せんざんこう)と書くが、「穿山甲」とはもともとこの「龍鯉」の「甲」のことを指し、これを漢方薬として用いていた。これがそのまま動物の名前になったのである。

アルマジロは背中に亀のような甲羅をもつ動物で、漢名から「犰狳」(キュウヨ)と書く。「犰狳」とは、もともと古代中国の地理書『山海経』に記載される凶兆とされる獣の一種で、鳥の嘴、鴟(とび)の目、蛇の尾を持ち全体としては兎のような姿をして、その鳴き声から「犰狳」と呼ばれた架空の動物が、アルマジロに当てられた。

歯が丈夫で齧ることに特化した齧歯目は、哺乳動物の中でも最も種類が多く、繁殖力も強く、最も繫栄している動物群で、ネズミやリス、ヤマアラシなどがいる。

「栗鼠」(りす)のうち、前脚から後脚にかけて皮膜を張り滑空するのが「鼯鼠」(むささび、ももんが)である。ムササビとモモンガは生物学的に同じ仲間で、小さいもの(手のひら大)がモモンガと呼ばれ、大きいのがムササビである(ネコくらい)。「鼯」一字でも(むささび)と読むのだが、この旁の「吾」は「五」を意味しており、「五」という漢字の篆書体がムササビの飛ぶ姿を表している(漢字変換できない)。

天敵から身を守るために背中に針状になった毛をもつヤマアラシは「豪猪」(やまあらし)と書き、気性の荒い猪(ここではブタ)の意味である。同じく背中が針で覆われる「針鼠」(はりねずみ)は、ネズミと名が付くものの齧歯目ではなく食虫目の動物で、大きさもヤマアラシが子豚大なのに対し、ハリネズミは鼠くらいの大きさである。一字で「蝟」(はりねずみ)と読む字もある。 

食虫目のモグラも、鼠の仲間ではないものの鼠偏を使って「鼴鼠」(もぐら)あるいは一字で「鼹」(もぐら)と書く。旁の「匽」は隠れることを表している。「土竜」(もぐら)という熟字もあるが、これはもともとミミズを指すので誤用である。ちなみにミミズは「蚯蚓」(みみず)と書く。

完全に飛翔できるコウモリも齧歯目に次いで繁栄している哺乳動物の仲間で「蝙蝠」と書く。「扁」は平たくヒラヒラしていることを、「畐」は「副」に通じ、ぴったりとくっつくことを意味し、ヒラヒラ飛んでは壁にへばりつく姿を表している。

53 サルビアとラベンダー  (漢検準1級と1級に役立つよ)

 

シソ科

俗にハーブと呼ばれる植物があるが、ハーブに明確な定義があるわけではない。ハーブとはもともと草を意味するラテン語で、現在は薬効のある植物全体を総称している。ハーブの多くは香りの強い、セリ科やシソ科の植物である。

「紫蘇」(しそ)の名は中国の伝説的な名医 華陀の逸話に由来する。その昔、洛陽の若者たちが蟹の大食い競争をして食中毒となり、死にかけてしまう。華陀がこの葉を煎じた紫色の薬を与えたところ、若者たちはたちまち蘇った。そこでこの薬草が「紫蘇」と呼ばれるようになったのである。薬草として用いる場合は、「蘇葉」(ソヨウ)と呼び、抗菌作用があり風邪薬などにも使われる。

ローズマリーは香料として、また精油(アロマオイル)として名高いハーブのひとつで、和名はマンネンロウという。常に芳香を放つことから「万年香」(マンネンコウ)と呼ばれていたものが、写し間違えによって(マンネンロウ)になったと言われる。漢名から「迷迭香」(まんねんろう)と書くが、「迷迭」(メイテツ)とは地名の音写である。

サルビアも紫蘇のイメージからはほど遠いが、シソ科の植物である。精油によく用いられるセージはサルビアの仲間で、一般的には観賞用に育てられるものをサルビアといい、香辛料や精油として用いるものをセージと呼ぶ。サルビアは「来路花」と書く(由来不明)が、青や紫、白や黄色などの多くの種類があり、特に赤いサルビアは「緋衣草」(ひごろもソウ)と呼ばれる。

また、香りの高いラベンダーもシソ科の植物で、こちらは薫りをまとう衣と書いて「薫衣草」(クンイソウ)の和名を持つ。

「籬通」(かきどおし)は繁殖力が強く、地を這って蔓が垣根を通り抜けてはびこる、というのが名の由来で、日本中どこにでも自生する植物である。葉の形がお金(銭)のようで、これが連なっていることから「連銭草」(かきどおし)とも書く。古くから子供の疳を取り除く生薬として用いられ、別名 疳取草(かんとりそう)とも呼ばれる。葉の形から「馬蹄草」(かきどおし)とも書く。

チョロギもシソ科の多年草で、根(塊茎)の形がイモムシ様で、これを蚕に見立てて「草石蚕」(ちょろぎ)と書く。これ自体にはほとんど味がないが、塩漬けにされたり、甘煮にされたりして食される。甘くすることが多いからか、「甘露子」(ちょろぎ)とも書く。「長老木」「長老喜」「千代呂木」という当て字もあり、縁起のよい食材としてお節料理の黒豆によく添えられてきた。チョロギという名は中国語の「朝露葱」を音読したものだとか、ミミズを意味する朝鮮語に由来するなどの説がある。

 「目弾き」(めはじき)という植物は、昔の子どもがこの茎を短く切って上下のまぶたの間に挟み、目を閉じる勢いでこれを遠くへ弾いて遊んだ。「茺蔚」(めはじき)とも書いて、種が充ちて(=茺)盛んなこと(=蔚)を意味する。古くから中国で婦人病に用いられてきた薬草で、母の益になることから別名を「益母草」(ヤクモソウ)という。

52 ヒノキ  (漢検準1級と1級に役立つよ)

 

ヒノキ

「檜」(ひのき)は台湾と日本にしか分布しない針葉樹で、大きいものでは30mを超える。和名は「火の木」に由来し、昔この木を擦り合わせて火を起こしたことによる。強く、ゆがみにくく、加工しやすくため、古くから建材として用いられてきた。

アスナロはヒノキによく似た日本特産の常緑針葉樹である。「明日は檜になろう」という意味から「明日檜」「翌檜」と書くが、一説にはヒノキに比べて葉が厚いことから「あつばひのき」から「明日はひのき」→「明日なろう」に転じたとも言われている。別名ヒバと言い「檜葉」と書く。またこのアスナロに「羅漢柏」(ラカンハク)と当てることもある。羅漢とは仏教において煩悩を脱して悟りの境地に達した聖者のことで、正式には「阿羅漢」と言う。「仙柏」と書くラカンマキはイヌマキの変種で、六月頃にブドウ大の丸い実を付ける。実の下には細長い果托があって、秋になるとこれが肥大して赤く色付く。その姿がまさに僧のようであることから「羅漢樹」と呼ばれるようになった。このイヌマキのことをアスナロと呼ぶ地域があり、混同されてしまったようである。「羅漢松」と書けば(いぬまき)と読む。

日本で「柏」(かしわ)と言えば、柏餅を包む葉を見てわかるように、ブナ科の広葉樹を指し、針葉樹のヒノキとは全く関係ない。これは中国で「柏」の字が常緑の木を指しているからで、「柏」という字を(かしわ)と読むのは日本独自の使い方(国字)なのである。このため、ヒノキ科には「柏槇」(びゃくしん)、「花柏」(さわら)、「側柏」(このてがしわ)など、どれも「柏」の字が使われる。

「杜松」(ねず)は「柏槇」(びゃくしん)の一種で、葉が針状で強く鼠をも突き刺すと考えられ、鼠よけに用いられた。「鼠刺し」(ねずみさし)と呼ばれていたものが縮まってネズと呼ばれるようになった。「杜松」(トショウ)と書くのは、果実が杜(やまなし)(リンゴに似た小さな実を結ぶ)に似て、葉が松に似ることに由来する。ちなみにビャクシンはヒノキガシワとも呼ばれていたために、「檜柏」で(びゃくしん)とも読む。

「花柏」(さわら)もヒノキに酷似した常緑樹だが、木材は柔らかく建築用材にはむかないため「弱檜」とも書く。サワラの語源も「さわらか(軽くて質が粗い)」から来ている。一字で「椹」(さわら)の漢字もある。

また、コノテガシワは子供が手を上げているかのように葉が直立している様子から「児の手柏」と呼ばれた。漢名から「側柏」と書くが、「側てる」(そばだてる)の意味で、やはり葉の様子を示している。もっぱら庭木などに用いられるヒノキ科の植物で、ブナ科の柏とは関係がない。

ブナ科の樹木は柏(かしわ)の他、栗、椎、椚、楢、樫などを含む落葉広葉樹である。ブナは漢名から「山毛欅」と書くが、山地に分布し、その葉には柔毛が生えて、欅(けやき)に似た用材であることから「山毛欅」(ぶな)である。またイヌブナという木があるが、頭にイヌと付くのは、たいていもとの植物に対して格が下がる際に用いられる蔑称である。ところが漢名では仙人をイメージする「仙」を使ったため「仙毛欅」と書いて(いぬぶな)と読む。「仙」は仙人のように人里離れた山奥にあることを意味している。

51 6月の誕生石と香木  (漢検準1級と1級に役立つよ)

 

6月の誕生石と香木

6月の誕生石はムーンストーンと真珠、欧米ではアレキサンドロライトも挙げられる。月の石の名を持つムーンストーンは淡い乳白色でまさに月の光のような光沢を放つ。和名も「月長石」(ゲッチョウセキ)である。

真珠は6月の誕生石だが、冠婚葬祭のいずれにも使えることから、誕生月にかかわらず人気の高い宝石である。この真珠も乳白色の光沢から「月の雫」との異名を持つ。真珠を作り出す貝として知られるのが「阿古屋貝」(あこやがい)だが、本真珠といえば本来「鮑」(あわび)によって形成されるものを指していた。そのアワビは「石決明」とも書く。

「夷草」「胡草」と書いて(えびすぐさ)と読むマメ科の植物がある。この種子を乾燥させると「決明子」(ケツメイシ)という漢方薬になる。決明とは「明を開く」つまり視力を回復するという意味である。一方アワビの貝殻を粉にしたものも決明の薬として用いられていた。このため草に由来する決明の漢方を「草決明」、アワビによるものを「石決明」と呼び、これがアワビを表す漢字となった。実際には「決明子」は眼病よりも便秘や胃腸病に使う薬となっている。「ケツメイシ」というグループがあるが、その名もこれに由来するらしく、便秘の薬ということで「すべてを出し切る」という意味が込められているとか。

話はさらに反れるが、歌舞伎の演目に仙台藩のお家騒動を扱った「伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)」というものがある。伊達家3代目の綱宗が遊郭通いに耽溺し、そのために次々と起こった事件を演じた名作である。伽羅(キャラ)とは香木の一種「沈香」(ぢんこう)の中でも特に香りがよい最高級のものを指す。「伽羅」と書いて(めいぼく)と読ませるのは、伽羅がすなわち「名木」だからである。宮城の萩は県花になるほど名高く、「先代萩」の名は「仙台萩」から来ている。この「先代萩」は「野決明」とも書いて(せんだいはぎ)と読むのである。ただし決明の効果はほとんど知られていない。

沈香」とは正式には「沈水香木」といい、水に沈む香木のことである。「沈丁花」(ジンチョウゲ)科ジンコウ属の樹木が分泌した樹脂が木部と共に固まったもので、木部の比重が重くなったことでこの木は水に沈むようになる。「沈丁花」(ジンチョウゲ)という花の名前も「沈香のような香りのする丁子(ちょうじ)のような花」という意味である。漢名で「瑞香」(じんちょうげ)(ズイコウ=めでたい香り)と書くのも、香りのすばらしさを示している。

またキク科には「木香」(もっこう)という名の花がある。根に甘い芳香があるので薫香料として、また胃薬などにも用いられる。この木香に根の香りが似ることから「吾木香」(われもこう=わが国の木香)という名のバラ科の植物もある。ワレモコウは「吾亦紅」とも書き、この語の方では「吾もまた紅い」と主張する。また花の蕾が×の字に割れた「木瓜(もこう)の紋」に見えることを語源として「割木瓜」とも書く。根を乾燥させたものは止血などに用いる生薬で「地楡」(チユ)と呼ばれる。葉が楡(にれ)に似ていて地面に広がるからで、ここから「地楡」(われもこう)とも読む。

50 5月の誕生石と美女  (漢字検定準1級と1級に役立つよ)

 

5月の誕生石と美女

5月の誕生石は、「緑玉」(リョクギョク)あるいは「翠玉」(スイギョク)と呼ばれるエメラルドである。エメラルドグリーンという色があるように鮮やかな緑色をした宝石だが、石の成分はアクアマリンと同じである。ベリリウムを含んだベリル(緑柱石)と呼ばれる鉱石にクロムが混ざるとエメラルドとなり、鉄が入るとアクアマリンになる。

「翠」はもともとカワセミのオスを表す漢字なのだが、その青緑に輝くカワセミの羽の色をも表すようになった。「翠嵐」(スイラン)という言葉があるが、これは青緑色にうっすら包まれた山に立ち込める気のことを指す。同じ(スイラン)でも「翠巒」と書けば緑に色付いた山々のことである。

美しい女性を喩える熟語はたくさんあるが、「翠黛」(スイタイ)は「青緑に描かれた女性の黛(まゆずみ)」から、美人の形容に使われる。反対の色「紅」を使って「紅裙(紅のもすそ)」(コウクン)も美しい女性のことであるが、こちらは芸者などに使う語である。

古来中国には時代時代に絶世の美女が現われては、時を担った武将や皇帝の陰で歴史を彩ってきた。例えば「阿嬌」と言えば美人を表す言葉だが、これは前漢武帝の皇后の幼名である。たいへん美しい人として知られた存在であったことから、次第に「阿嬌」が美しい人を指す語になった。

「傾城傾国」(けいせいけいこく)とは「一度会えば城が傾き、再び会えば国が傾く」ほどの美女のことで、もともとは唐の皇帝・玄宗の妃 楊貴妃のことを指していた。玄宗は美しい妃との愛欲生活に溺れ、政務を怠り、その挙句反乱が起こって都を追われる。そして楊貴妃もその責任を負わされて処刑されてしまう。この故事から「傾城」「傾国」と言えば国を傾かせるほどの美女を表す言葉となった。

「雛罌粟」(ひなげし)は別名 虞美人草と呼ばれるが、「虞」とは楚の武将・項羽の恋人の名である。項羽は宿敵・漢の劉邦との戦いに敗れ、楚軍は垓下の地で追い詰められて包囲される。このとき四方から楚の国の歌が聞こえてきた。これは楚軍が劉邦の手に落ちたと思わせるための劉邦の策略で、これが「四面楚歌」という四字熟語の出自である。悲嘆した二人は別れの宴を開き、その後、虞は自ら命を絶ってしまう。一方項羽は決死の反撃を試み、一度は漢軍から逃れたものの、今度は単身で漢軍に挑み、最後には自害する。「虞」を葬った墓からは毎年夏になると赤いヒナゲシが咲くようになった。この伝説が「虞美人草」の由来である。単に「美人草」と書いても(ひなげし)のことである。

「罌粟」(けし)はアヘンやヘロインの原料で、日本では一般の栽培は禁止されている。しかしヒナゲシから麻薬は作れないので、ポピーの愛称でよく園芸用に植えられる。「罌粟」(けし)と書くのは実が「罌」(口の小さく体の大きなかめ)に似て、種子が「粟」に似るからである。また「芥子」(けし)とも書くが、これは「芥子菜」(からしな)の種子とケシの種子が似ているために混同された。漢名(中国語)から「麗春花」と書いても(ひなげし)と読む。

49 オスとメス  (漢字検定準1級と1級に役立つよ)

 

オスとメス

動物の性別は、「雄」と「雌」、あるいは「牡」と「牝」という漢字を用いる。しかし中にはオスメスの意味を含んだ漢字がある。

オシドリはカモの仲間で「鴛鴦」(エンオウ)と書き、「鴛」はオスのオシドリを、「鴦」はメスのオシドリを意味する漢字である。いつも番(つがい)で行動を共にする仲の良い夫婦の象徴とされるが、実は繁殖期以外は別行動をし、繁殖期ですら子育てはもっぱらメスが行う。しかも毎年パートナーは変わると言われ、実はそれほど仲がよいわけではないらしい。

翡翠」(ヒスイ)という熟語は、このまま(かわせみ)とも読み、「翡」がオスのカワセミを、「翠」がメスのカワセミを表している。川辺に棲息する鳥で、光の加減で背中の羽が鮮やかな水色(翡翠色)を呈する。宝石の翡翠(ヒスイ)にこの字が使われたのは、その羽根の色の美しさに喩えたものである。魚を捕るのが得意なカワセミは、漢名から「魚狗」「魚虎」(魚を捕る肉食獣の意)とも書く。日本に生息するカワセミの仲間は、カワセミアカショウビン、ヤマセミの3種だけで、アカショウビンは全身が赤いことから「赤翡翠」(あかしょうびん)、ヤマセミは白と黒のまだら模様と頭に生えた大きな冠毛が特徴で、山地に住むことから「山翡翠」(やませみ)と書く。ヤマセミには「山魚狗」の熟字も使われる。

同じく鳥、といっても想像上の動物「鳳凰」(ホウオウ)も「鳳」がオスを「凰」がメスを意味する。また、その昔、空にかかる七色の虹が龍の一種だと考えられていて、「虹」がオスを、「蜺」あるいは「霓」がメスを指し、「虹蜺」「虹霓」(コウゲイ)と書いてにじのオスメスを表した。にじは光の屈折によって、濃くはっきりと描かれる虹の外側に、色の配列が逆になった薄いにじが現れる。この濃い方を「虹」と書きオスに、薄い方をメスに喩えて夫唱婦随の姿をイメージしたのである。「虹」に虫偏がつくのは動物の一種(龍)と考えられていたからだ。

「鯨鯢」(ケイゲイ)も、「鯨」がオスのクジラを「鯢」がメスのクジラを指している(「鯢」の字はサンショウウオとも読む)。「鯨鯢」という言葉は、共に小魚を食うことから転じて、悪人のかしらのことをも意味するようになった。

このほか、鹿の漢字にもオスメスの区別があって、「麌」は(おじか)と読み、これに対して「麀」(めじか)という字もある。「麀」の下に付いた「匕」(ヒ)という文字はもともと女性を象った象形文字で、ここから「牝」「麀」という字が生まれた。鹿には、小鹿を意味する「麑」(かのこ)の字もある。この他、「羝」(おひつじ)、「騭」(おすうま)、などは雄の意味を含む漢字である。

48 4月の誕生石と天使の薬  (漢検準1級と1級に役立つよ)

 

4月の誕生石と天使の薬

4大宝石とは、ダイヤモンド、ルビー、サファイア、エメラルドのことを指す。宝石と呼ばれるためには、美しさもさることながら、その希少性や耐久性も条件となる。ルビーは紅玉、サファイアが青玉、エメラルドが緑玉と呼ばれるように、それぞれが各色を代表する宝石でもある。5大宝石となれば、ここにアレキサンドライトが加わる。アレキサンドライトはクリソベリル(金緑石)の一種で、当てる光によって色が変わる。ちなみにベリルは「緑柱石」と呼ばれ、ベリリウムを含む鉱物の1グループで、アクアマリンやエメラルド、さらに最近4月の誕生石となったピンク色のモルガナイトも含まれる(つまり緑色とは限らない)。

ダイヤモンドは宝石の王様で、自然界に存在するものの中で最も硬い物質とされてきた(最近、これより硬い鉱物が発見されている)。その名の由来もギリシャ語で「誰にも征服されない」という言葉“adamas”から来ている。和名でも「金剛石」(コンゴウセキ)と書いてダイヤモンドと読むが、「金剛」も「非常に硬くて強い」という意味である。硬い鉱物とはいうものの衝撃には弱く、ハンマーで叩けば粉々に砕けるし、またある一定方向からの力には弱いという性質があり(劈開という)、損傷しないというわけではない。ダイヤモンドは4月の誕生石だが、生まれ月に関わらず最も人気の高い宝石である。

植物では「金剛纂」と書いて(やつで)と読む。漢名由来だが、中国で「金剛纂」は違う植物を指しているので誤用のようである。天狗の羽団扇(はうちわ)と呼ばれるヤツデは、大きな葉が8つ(7~9)に裂けることから「八手」なのだが、中国語では「八角金盤」といい、この熟字でも(やつで)と読む。ウコギ科の植物で、観葉によく栽培される。

ウコギは「五加」あるいは「五加木」と書くが、これは中国で「五加」(ウーコ)と呼んでいたヒメウコギ(ウコギの一種)が、日本へ渡った際に「木」が付いて「五加木」(ウーコギ)と呼ばれるようになったためである。ウコギ科の植物には他にも、「高麗人参」、「刺楸」(ハリギリ)、「独活」(うど)、などがある。

ハリギリの枝にはたくさんの鋭い刺(とげ)があり、葉が桐に似ていることから「針桐」である。漢名からは「刺楸」と書くが、これはハリギリの葉が「楸」(ひさぎ)にも似ているため、同属と考えられていたからである。

「ウドの大木」と言う慣用句がある。ウドは高さ2~3mにも成長するものの、木ではなく草である。若芽や蕾は山菜として食されるが、大きく成長してしまうと、食用にもまた建材としても役立たない(草だから)。ここから、体ばかりが大きくて何の取り得もない人のことを指す。ウドは一本の茎がまっすぐに伸び、「風があっても揺るがず、風がなくても自ら動く」と言われたことから「独活」と書く(独りで活動するという意味)。また「土当帰」(うど)と書くこともある。「当帰」(トウキ)とは漢方において婦人病や不妊の治療に頻用されてきたセリ科の多年草である。「当(まさ)に帰る」と書くのは、子どもができないために、あるいは病弱のために実家へ帰された嫁が、この薬を服用して元気になり、「当に帰る」ことができたからという説や、夫に浮気された妻がこの薬を飲んで美しくなり、夫が「当に帰る」ようになったからという説などがある。婦人科疾患の治療になくてはならない漢方薬で、英語でも“angelica”天使を意味する。

「土当帰」は土から直接生える「当帰」のような薬効を持つ植物の意味である。「土当帰」と書いて(のだけ)とも読むのだが、ノダケはセリ科の多年草で、同じような薬効を持つことからこの字を使う。