漢字と熟字訓の由来を巡る旅

漢検準1級と1級に役立つよ

58 8月の誕生石とオリーブ  (漢検準1級と1級に役立つよ)

 

8月の誕生石とオリーブ

ペリドットは鮮やかな黄緑色をした透明な宝石で、8月の誕生石である。和名は「橄欖石」(カンランセキ)という。「橄欖石」の「橄欖」は緑色の実をつけるオリーブのことを指す。この実をペリドットに見立てたのである。本来「橄欖」(カンラン)とは、中国原産で熱帯から亜熱帯にかけて分布するカンラン科の常緑高木で。オリーブとは何の関係ない。オリーブが橄欖と混同されたのは、聖書を中国語に訳す際、オリーブに「橄欖」の字を当ててしまったのが始まりだと言われている。日本にもこれが誤解されたまま伝わって、「橄欖」と書いて(オリーブ)とも読む。オリーブには「阿利布」の当て字も使われる。

「乳香」(にゅうこう)と「没薬」(もつやく)は、古代エジプトの墳墓からも発掘されるほど、古くから非常に神聖な香として用いられていた。キリストの生誕の祝いに黄金と共に贈られたとして、聖書にも登場する。このどちらもがカンラン科の樹木から分泌された樹脂なのである。没薬はミルラという樹木から採るのだが、ミイラを作る際に防腐剤として使われた。このミルラがミイラの語源である。ミイラは漢名から「木乃伊」と書くが、これはアラビア語で「瀝青」(れきせい)を意味する語に漢字を当てたものとされる。瀝青とはアスファルトやコールタールなど黒色で粘性のある炭化水素化合物で、ミイラにも防腐剤として使われていたことから混同された。ちなみに「番瀝青」と書くと(ペンキ)と読む。

一方オリーブはモクセイ科の植物で、モクセイ科とはキンモクセイ、ギンモクセイのほか、ヒイラギ、ジャスミンライラックレンギョウトネリコなどの仲間である。

「柊」(ひいらぎ)は常緑の低木で、葉は外縁が鋸歯状に変形し鋭い棘がある。名前の由来も棘が刺さった際にズキズキするほど痛いという意味の「疼ぐ」(ひいらぐ)から来ており、「疼木」(ひいらぎ)とも書く。「柊」という漢字も「疼」から来るもので季節の冬とは関係ないが、冬になると白い小さな花を咲かせる。漢名からは「枸榾」(ひいらぎ)と書く。これはもと「狗骨」と書いて、樹肌の白いことが「狗の骨」のようだと表現されたことに由来し、樹木であることから「狗骨」→「枸榾」と変換されたのである。

ジャスミンは「素馨」(ソケイ)と書いて「素(しろ)くて馨(かお)りの良い花」の意味である。「素馨」には次のような逸話もある。呉代の劉穏という帝に素馨という名の美しい侍女がおり、彼女が亡くなったあと葬った墓からこの白い花が咲き、いつまでも香りを放ったという。

ライラックは「丁香花」(はしどい)の仲間で、春になると香りの高い紫をした房状の花を咲かせる。和名をムラサキハシドイと言い「紫丁香花」と書いてライラックと読む。ハシドイとは春に白い花を房状に咲かせるモクセイ科の植物で、花が枝の端に集まることから「端集い」→ハシドイになったとされる。「丁香花」と書くのは花の形が「丁香」(ちょうじ)に似ているからである。その「丁香」・「丁字」(ちょうじ)とはフトモモ科の植物で、花蕾の形が「丁」(小さな釘を表す)を思わせることに由来する。その花蕾を乾燥させたものは香辛料として、また胃腸薬として使われる。

トネリコもモクセイ科の植物で、写経の際にこの木の皮を膠状に煮て墨汁と共に練って用いたことから「共に練る濃」→トネリコとなった。また敷居の滑りをよくするためにこの木の樹蝋を溝に塗ったことから「戸塗る木」→トネリコになったという説もある。この木の皮は「秦皮」(シンピ)と呼ばれ、生薬として用いることから「秦皮」と書いても(とねりこ)と読む。「梣」という字はもともと(とねりこ)を意味する漢字で、この樹皮が「梣皮」(シンピ)である。これが音から「秦皮」に転じたようだ。「秦」は中国の地方の名前という説もある。